2023年度「牛乳乳製品健康科学」学術研究として実施された「乳製品特有の脂肪酸ルーメン酸による抗腫瘍作用」(東北大学大学院 薬学研究科 衛生化学分野 平田祐介先生)の研究成果が、Cell Death and Diseaseに原著論文として受理され、公開されましたのでご紹介いたします。


Cell Death and Disease 2024; 15: 884
[PMID : https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39643606/
 DOI : https://doi.org/10.1038/s41419-024-07237-w]


【論文タイトル】
Conjugated fatty acids drive ferroptosis through chaperone-mediated autophagic degradation of GPX4 by targeting mitochondria.

【要約】
乳製品に含まれる特有の脂肪酸であるルーメン酸などの共役脂肪酸は、古くから抗腫瘍作用を有することが知られている。しかし、その具体的な分子機構については、不明な点が多く残されていた。本研究では、ルーメン酸などの共役脂肪酸が、分子によって制御される細胞死の1つである「フェロトーシス」によってがん細胞を殺傷することを発見した。HT1080(ヒト線維肉腫)やA549(ヒト肺がん細胞)などのがん細胞株にルーメン酸などの共役脂肪酸を処置したところ、過酸化脂質の増加を伴って細胞死が起きた。この細胞死は、フェロトーシスの阻害剤で抑制された一方、アポトーシスをはじめとする他の制御性細胞死の阻害剤では抑制されなかったことから、フェロトーシスによるものであることが判明した。フェロトーシスとは、鉄依存的に脂質過酸化の連鎖反応が起きることで過酸化脂質が細胞内に蓄積し、やがて細胞膜が破裂して細胞が死に至る現象である。詳細な解析から、共役脂肪酸は、がん細胞に取り込まれたのちに特にミトコンドリアに蓄積し、ミトコンドリアにおける活性酸素や過酸化脂質の産生を促進すること、細胞内の過酸化脂質の消去を担う主要な酵素GPX4のタンパク質分解を促進することを見出し、この2つの相乗的な作用によって、がん細胞のフェロトーシスが促進され、がん細胞が死滅することが明らかになった。本研究成果により、乳製品を通してルーメン酸などの共役脂肪酸を摂取することで、がんの予防や改善に繋がることが示唆された。 

  • 本研究は2023年度「牛乳乳製品健康科学」学術研究によりおこなわれたものとなります。
▼研究報告書

2024年12月18日