乳製品特有の脂肪酸ルーメン酸による抗腫瘍作用の作用機序解析
2023年
著者:平田祐介
所属:東北大学大学院 薬学研究科 衛生化学分野
【要約】
ルーメン酸は、ウシやヤギなどの反芻動物の胃の中の微生物の酵素反応によって産生される共役脂肪酸(複数の炭素-炭素間二重結合が隣接した構造を持つ脂肪酸:conjugated-linoleic acid(CLA))である。その異性体である10-CLAとともに、牛乳・ヨーグルト・チーズなどの乳製品中に特に豊富に存在する。古くから様々な効能が知られ、特にその抗腫瘍作用に関する多くの報告がなされてきたが、その具体的な作用機構は不明であった。我々は最近、これらのCLAががん細胞取り込まれると、新規プログラム細胞死「フェロトーシス」を惹起することを見出した。フェロトーシスは、鉄依存的な脂質過酸化が起点となって引き起こされる細胞膜破壊を伴う細胞死であり、鉄や活性酸素を豊富に含むがん細胞の感受性が特に高いことが報告されており、新たながん治療薬開発の上で有力な創薬ターゲットとして着目されている。しかしその一方で、フェロトーシスは、神経変性疾患や肝・腎臓をはじめとした臓器障害など、様々な疾患発症・増悪の要因になることから、フェロトーシス誘導剤をがん治療に応用する上で、正常細胞に対する副作用が少なく、かつがん細胞に対する有効性・選択性が高い薬剤の開発・創出が必須となる。ルーメン酸や10-CLAは、乳製品から日常的に摂取しており、安全性が非常に高い食品中成分である上に、がん細胞をフェロトーシスによって選択的に殺傷できる作用を有するという点で、副作用の少ない理想的な抗がん剤となり得るが、詳細なフェロトーシス誘導機構については未解明である。また、CLA感受性が高いがん細胞種を特定し、がん細胞選択的なフェロトーシスの誘導効率を高める工夫も必要となる。そこで本研究では、上記の課題解決のため、日常的な乳製品の摂取による潜在的ながんの予防・治療効果を明らかにし、その効果を最大限発揮するための食生活や生活習慣の工夫・改善策も併せた提案を目指すことで、乳製品を通して国民の健康長寿増進に貢献することを目的とした。
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