2019年
著者:光成 有香
所属:京都大学大学院地球環境学舎

  • 社会文化
  • マーケティング

要旨

 本研究の目的は,市場開放圧力が高まり,輸入乳製品が容易に購入できるようになってきた状 況において,国産乳製品に対する消費者の指示がどの程度の強さ化を定量的に推定することである。
 分析の対象は家庭用バターとして,調査会社のモニターを調査母集団としたWebアンケート消費者調査で,国産,北海道産,フランス産,ニュージーランド(以下 NZ)産のバターの評価を聞いた。店頭にこの 4ブランドのうち 2ブランドが並んでいるという仮想状況での一対比較の選択実験を行った。被験者は,日頃から月あたり 50g以上バターを自ら購入しており,バターに対する関与の高い消費者を選定した。推定に用いた標本規模は 817であった。
 選択実験の結果から商品価値評価を推定し,比較することで,国産バターの商品価値競争力を評価した。推定結果が現状を再現しているとすれば,国産バターの商品価値評価は高く,73%の消費者に実売価格(約400円/200gを想定)と同程度かそれ以上に評価されている。一方で,輸入品に対する抵抗感は強く存在し,52%の消費者に国産バターよりも100円/200g以上低く評価されている。ただし,24%の消費者が輸入品に抵抗感を持ちながらも,50円/200g以上安ければ輸入品を選択する。
 こうした消費者には,食費月額が少ない人,50歳未満の若い女性が比較的多い。さらに5%の消費者は,輸入品に抵抗感がなく,その半数がすでに輸入バターの購入を経験している。NZ産の大半がグラスフェッド・バターであることが消費者に知られれば,94%の消費者でNZ産バターの評価が高まる。とりわけ,価格差には厳しいが好ましいものは高く評価をする食への関心が高い消費者と先述の輸入品に抵抗のない消費者(合計で9%の消費者)は,国産よりNZ産を100円/200g以上高く評価する。
 こうした評価を市場レベルに集約して評価するために,被験者のマインドシェアを集計した「潜在的市場シェア」を測った。輸入品に対して,北海道産,次いで国産に強い支持があり,これらが約400円/200gで販売されている場合,NZ産バターの価格が70円/円以上割り引かれないと,国産の評価を超えることはできない。しかし,NZ産がグラスフェッド・バターであると認知された場合は,その差は30円/200gに縮まる。北海道産であっても,50円/200gの価格差で評価が逆転する。
 潜在的市場シェアは,現実の市場シェアの推計と考えるべきではなく,あくまでも,商品価値競争力の市場レベルでの1つの指標である。また,実際のNZ産グラスフェッド・バターの風味を知らない被験者による回答に基づいている点にも留意が必要である。

※2019年度「乳の社会文化」学術研究

2021年3月8日