2018年
著者:石田 貴士
所属:千葉大学

  • 社会文化
  • マーケティング

はじめに

 乳業メーカーと食育との関係は大変深く、少なからずの乳業メーカーは食育基本法の成立のはるか以前から工場見学の受け入れなどで、地域社会との関係を築いてきている。しかし、意外にも乳業メーカーによる食育活動の取り組み状況やその意識については、一部の業界団体で限定的に調査されることはあっても、これまで本格的な研究対象としてされたことはなかった。また食育に関する研究は、総じてこれまで学校教育に偏っており、特に学校給食に関する分析は数多くなされてきた(例えば、内藤・佐藤, 2010)。
 しかし今後、食育の社会的裾野をさらに拡大するためには、企業による食育への貢献も重要な論点と考える。とくに、CSR 活動の一環として食育を実施する企業にとって、受益者である消費者への効果のみならず、企業側にとっても効果が生じることが暗黙的に期待されていると考えることが妥当である。つまり、経営戦略の側面は無視できないと考える。しかし、学校教育関係での研究の蓄積に比べて、企業による食育活動についての分析は多くない。食育政策開始前後に企業の食育の可能性と意義を論じた清水(2004)や清水(2006)をはじめとして、食育政策の開始後(2008 年)に食品産業を対象に内閣府でごく概況的な調査が行われている(内閣府, 2008)。その後、食育教材としての観点からの研究がなされている(櫻井ほか, 2012;櫻井ほか, 2013)。その後の展開を踏まえた企業によるCSR としての食育活動については、2000 年代後半に本格的な調査・研究が石田ほか(2017;2018)や櫻井ほか(2017)および大江ほか(2018)で実施され研究蓄積がなされるようになってきている。また、欧州における食品企業による食育に関する調査も行われている(大江ほか,2019)。
 しかし、乳業メーカーによるCSR としての食育とその企業戦略との関連性に関する理論的・実証的解明は依然として甚だ不十分である。今後乳業メーカーによる食育活動への参加を増やすためにも、企業側にどのような効果が生じるのかを解明することは、参加への動機付けのエビデンスとして重要と考える。そこで、本研究では、乳業メーカーの食育活動への取り組みに関して、CSR としての食育の取り組みという観点から実施した聞き取り調査やアンケート調査データを基に、概念的フレームワークを提示するとともに計量的にその実態を明らかにするとともに、今後の乳業メーカーによる企業の戦略的な行動を考慮した食育への支援策に関わる課題を展望する。
 
※平成30年度「乳の社会文化」学術研究

「あたらしいミルクの研究リポート」のご紹介

この研究をもとに、「あたらしいミルクの研究リポート」を作成しました。
研究リポート紹介ページ (Jミルクのサイトへ)

2020年1月29日