2018年
著者:林田 光平
所属:カリフォルニア大学サンディエゴ校 Rady School of Management

  • 社会文化
  • マーケティング
 現代の食品小売業界では、消費者の店舗来店や購買意欲を促進する一つの方策として、特定の商品を継続的に値引きをして集客を行う戦略(Loss Leading)が常態化している。しかしながら、その有効性については必ずしも明確となっているわけではない。さらに、値引き対象となる商品に関しては、消費者の値ごろ感の基準である参照価格が低下することで将来の購買機会に一層価格に対してシビアな行動をとるようになり得る。したがって、値引きを適当に行うのではなく、事前に将来への影響も考慮した上での適切な値引きのタイミングや幅を調べることができれば、より無駄を省いた効果的なマーケティング戦略につながる。そこで本研究では、値引きが常態化しているとされている牛乳カテゴリーを対象に、まず値引きが店舗売上や来店客数に与えている影響を大規模な実購買データを用いて推定する。さらに、消費者の参照価格形成に関する動的なプロセスと価格認知に係る要素を考慮した構造モデルを用いて、値引き幅やタイミングの改善の可能性を探索する。分析に際しては、HiLoプライシングとEDLPプライシングという異なる価格戦略をとる2タイプのチェーンに関してIDPOSデータを収集し、値引き販売の有効性に関して比較分析も行った。分析の結果、HiLoタイプのチェーンにおいては、平均的に牛乳カテゴリーの値引きにより当該店舗の同日総売上金額・来店客数ともに増加しているのに対して、EDLPタイプの店舗においては、同日総売上金額・来店客数ともに牛乳の値引きは負の影響が見られた。さらに値引きが長期的な売上に与える影響に関するシミュレーション分析を行ったところ、将来の参照価格低下への影響が大きいときに値引きをした場合には、期間全体の売上金額が悪化する傾向があることが明らかになった。このように、値引きについては,消費者の内的参照価格を十分に考慮し,現在における短期的なメリット(それさえ存在しないケースも存在する)だけでなく、長期的な観点から実施すべきかどうかを慎重に検討することが重要であるということが示された。

Key words : Loss Leading、価格販促、内的参照価格、プロスペクト理論

※平成30年度「乳の社会文化」学術研究
キーワード:
Loss Leading価格販促内的参照価格プロスペクト理論

2021年1月6日