乳製品の社会経済的発展に関する日欧比較研究 -知の創造と文化との関係を手がかりに-
2015年
著者:木村 純子
所属:法政大学
要旨
本研究は、乳文化の創造、衰退、および維持の仕組みを明らかにすることを目的とする。具体的には、2つの異なるコンテクスト、すなわち1)日本における乳製品文化の普及、および 2)世界の食文化に優れて貢献してきた多彩なヨーロッパのチーズ文化の基層について、日本の事例については地理的表示を分析概念として用いながら、イタリアの事例については神話としての自然を分析概念として用いながら明らかにする。
第1章は、土地の特性とチーズの特性との結び付きが乳文化の創造に与える影響を、チーズ生産者がどのようにとらえているのかを明らかにした。調査で収集したデータの解釈によって、生産者によって思考のロジックが異なることが明らかにされた。大きく2つのタイプがあった。1つ目は生産しているチーズが地理的表示に登録されることによって乳文化を創造できるという考え方である。2つ目は乳文化を創造できてから地理的表示に登録すべきだという考え方である。
第2章は、衰退する乳文化に消費者が価値を見出すのは、すでに失われたものに対する憧憬の念からであることを明らかにした。消費者は季節性のある時代に自身が戻りたいわけでは決してなく、自然を超越した豊かな社会の中でぜいたくな選択肢の1つとして乳文化を消費しありがたがっている。
※平成27年度「乳の社会文化」学術研究