2013年
著者:里村睦弓
所属:九州大学大学院農学研究院 農業資源経済学部門 食料流通学研究室

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

要旨

1.研究背景と課題
近年、酪農経営を取り巻く環境が厳しさを増している中で、生乳の加工製造・販売などの6次産業化への取り組みは一定程度進んできている。また、酪農では消費拡大や教育活動の場としての交流活動事業が盛んなことに特徴がある。
酪農における交流活動事業の位置付けとして、以下の3点が挙げられている。①消費者との交流活動をマーケティングの要素と捉えることで、6次産業化による事業展開において、商品の安定的な需要につなげる「6次産業化におけるマーケティング活動としての取り組み」(例えば斎藤2011)、②経営効率性が高く、6次産業化における独立した一部門として交流活動事業を位置づける「独立した収益部門としての経営多角化」(例えば大江2010、2011)、③交流活動事業を酪農のもつ多面的機能の一側面として捉え、私的利益のためではない「公共的サービスの提供」という位置付け(例えば佐々木2012)の3点である。そこで、本研究では、特に①のマーケティング活動としての交流活動事業の効果に焦点を当て、第1に、交流活動事業に取り組む酪農経営において①の位置付けがどの程度の重みをもっているのかを明らかにする。第2に、経営における交流活動事業の経営方式に及ぼす影響を検証する。
2.研究方法
調査は6次産業化に取り組み、かつ酪農教育ファームの認証を受けている酪農経営(以下、「認証牧場」とする)へのアンケートにより行う。第1の課題に対しては、①②③に該当する複数の測定項目を用意し、自経営への適合度合について5件法によって回答を得た。得られたデータについて因子分析とクラスター分析を行うことで、①②③の位置付けのうち、いずれの意識の認証牧場が多いのか検証する。また、経営方式に関しても複数の測定項目を用意し、どのような経営方式を採択しているのか検証する。第2の課題に対しては、交流活動の位置付けの違いが、経営方式に及ぼす影響の大きさをパス分析によって明らかにする。また、具体的な事例として3戸の認証牧場へヒヤリング調査を行う。
3.分析結果
交流活動事業の位置付けについて、因子分析より認証牧場の交流活動の意識の志向として「マーケティング志向」「公共サービス志向」「多角化志向」「他業種連携志向」の4つの志向が抽出できた。さらに、その志向によって認証牧場がどのように類型化されるか、クラスター分析によって明らかにした。その結果、「公共サービス志向」に積極的な「社会奉仕型」、「多角化志向」に積極的な「多角化型」、「マーケティング志向」に積極的な「マーケティング型」、すべての志向に対し積極的な「戦略型」の4つの展開方向があることが明らかになった。
経営方式について、因子分析により認証牧場の経営の志向として「雇用型」「インソーシング型」「アウトソーシング型」の3つの志向が抽出できた。そして、交流活動事業と経営方式の関係を共分散構造分析より、マーケティング志向と雇用志向には正の相関があり(10%水準で有意)、交流活動をマーケティングと捉えている認証牧場ほど酪農経営において雇用を入れる方向にみられることが明らかになった。また、公共サービス志向とアウトソーシング志向には正の相関があり(10%水準で有意)、交流活動を公共サービスと捉えている認証牧場ほど酪農経営においてアウトソーシングする方向にみられることが明らかになった。
さらに、A、B、C牧場に対するヒヤリング調査から、それぞれの特徴を明らかにすることができた、大規模経営のA牧場では、交流活動の意識は公共サービス志向であり、経営方式は雇用志向であった。所属クラスターは社会奉仕型であり、あくまでも交流活動事業と6次産業化部門は分離されていた。
B牧場では、交流活動の意識は多角化志向であり、経営方式はアウトソーシング志向であった。所属クラスターは多角化型であり、交流活動事業に対し、多角化部門と位置付けている。そして、6次産業化部門と連動するように、交流活動内でPB商品を提供するなどしている。
C牧場では、交流活動の意識は公共サービス志向であり、経営方式は雇用志向であった。所属クラスターは社会奉仕型であった。前節では公共サービス志向はアウトソーシング志向へ向かう傾向が考えられる、と述べたが、C牧場においては、異なる結果となった。交流活動事業に対しては公共サービスであるが、6次産業化部門に対してインセンティブのある重要な活動と位置付けている。
6次産業化している認証牧場全体においては、4つの交流活動への意識の志向と3つの経営方式の志向が明らかになった。また、交流活動への意識について3つに類型化され、意識の志向による展開方向が示された。残された課題として、本研究では意識と経営方式の相関関係は明らかになったものの、因果関係までは明らかにできなかった。今後は、新たに、因果関係を明らかにできる変数を準備し、検証すべきである。

書籍ページURL
https://j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000jgqy.html

2015年9月21日