2022年
著者:洪英在、八谷寛
所属:名古屋大学大学院 医学系研究科 国際保健医療学・公衆衛生学

  • 健康科学
  • 高齢者
  • 骨・筋肉・体脂肪量調節・運動機能・スポーツ

【要約】

目的:健康寿命の延伸、質の高い生活の維持のためにフレイル対策・予防の重要性が指摘されている。また、乳製品の摂取がフレイルに抑制的に関与する報告もある。しかし、フレイルの関する研究は老年期に至って以降の介入研究や観察研究がほとんどであり、中年期の生活習慣等と老年期のフレイル発症の関連を調べた研究はほとんど存在しない。我々は、中年期の牛乳摂取頻度と老年期フレイル発症に関する研究を行ったので報告する。

方法:2002年ベースライン調査参加者のうち、2018年時点で退職し、老年期に至っていた方265名(男性80.0%、2002年の平均年齢53.3歳)を対象にフレイル調査を行った。2020年改定日本版Cardiovascular Health Study基準を用いてプレフレイル、フレイル該当者を判定し、今回の検討では、プレフレイルとフレイルを合わせて「フレイル」と定義し、統計解析に用いた。具体的には、ベースライン調査時の牛乳摂取頻度(週1回未満、週1-6回、毎日1回以上)と2018年調査時の「フレイル」有無(発症)との関連をロジスティクス回帰モデルで解析し、オッズ比(OR)と95%信頼区間(95% CI)を求めた。性別、年齢で調整した解析(モデル1)、ベースラインのbody mass index: BMI、アルコール摂取量、運動頻度、喫煙習慣、生活習慣病の病歴を加えて調整した解析(モデル2)、肉類、魚類、卵類を加えて調整した解析(モデル3)、さらに牛乳に含まれる主な栄養成分である、カルシウム、タンパク質、ビタミンDの摂取量を加えて調整した解析(モデル4)を行った。

結果:
2018年の「フレイル」該当者は95名(35.8%)であった。牛乳高頻度摂取(毎日1回以上摂取)は「フレイル」発症に予防的に関与しており(モデル1: OR 0.43; 95% CI 0.22-0.87)、その関連は他の生活習慣や生活習慣病の病歴(モデル2: OR 0.41; 95% CI 0.20-0.84)、その他の食習慣(モデル3: OR 0.44; 95% CI 0.21-0.91)に独立していた。さらに、牛乳に含まれる主要な栄養素によっても説明されなかった(モデル4: OR 0.35; 95% CI 0.15-0.78)。

考察:中年期の牛乳高頻度摂取は老年期フレイル発症に抑制的に関与している可能性が示唆された。その関連は、牛乳高頻度摂取者が有する健康的な生活習慣に独立しておりまた、牛乳に含まれる主要な栄養素の摂取量によっても説明されなかった。若年期からの長期間の牛乳摂取に伴う身体組成や機能の変化や、牛乳摂取に関連するその他の生活習慣や栄養素、さらに中年期以降の生活習慣等の変化についてなどがその説明として考えられるが、今後さらなる検討が必要である。

結論:中年期の高頻度牛乳摂取が老年期フレイル発症に抑制的に関与している可能性が示唆された。

2024年6月21日