新型コロナウイルス感染を抑制する牛乳乳製品の探索
2022年
著者:林 康広
所属:宮崎大学 農学部 海洋生物環境学科
【要約】
目的:2019年末に、中国武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) はパンデミック感染を引き起こした。2020年12月にワクチン接種がイギリスなどで開始されて以降、感染の波を繰り返しながらも世界的に感染者数は減少している。また、RNA 依存性RNA ポリメラーゼの阻害剤であるモルヌピラビル、ウイルス由来のプロテアーゼ阻害剤であるニルマトレルビルやエンシトレルビルが開発され、低分子化合物による抗ウイルス剤が開発され、治療法は確立されつつある。そこで、新型コロナウイルス (SARSCoV-2) 感染の収束を早めることを目的として、本研究ではSARS-CoV-2 感染に予防効果がある牛乳乳製品を探索した。
方法:牛乳乳製品を凍結乾燥し、50mg/mL 濃度で精製水を用いて溶解し、牛乳乳製品サンプルとした。コロナウイルス感受性宿主細胞VeroE6/TMPRSS2株に牛乳乳製品サンプルで処理し(250μg/mL~4000μg/mL)、臨床分離したSARS-CoV-2オミクロン株 (BA.2)を感染させた後、ウイルス増殖による細胞死滅の割合をWST-8により測定し、抗SARS-CoV-2活性を評価した。
また、SARS-CoV-2 の受容体 ACE2、タンパク質分解酵素の TMPRSS2を発現する細胞HEK293T/ACE2-TMPRSS2細胞を宿主細胞として、SARS-CoV-2由来エンベロープタンパク質を外套したシュードタイプ水疱性口内炎ウイルスを用いて牛乳乳製品サンプルのSARS-CoV-2の侵入抑制効果を調べた。
抗ウイルス活性を評価した牛乳乳製品
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結果・考察:牛乳乳製品を凍結乾燥し、50mg/mL 濃度で精製水を用いて溶解し、牛乳乳製品サンプルとした。コロナウイルス感受性宿主細胞VeroE6/TMPRSS2株に牛乳乳製品サンプルで処理し(250~4,000μg /mL)、臨床分離したSARS-CoV-2オミクロン株 (BA.2) を感染させた後、ウイルス増殖による細胞死滅の割合をWST-8により測定し、抗ウイルス活性を評価した。すると、カルピス以外の乳製品においては、顕著な抗ウイルス活性が見られた。特に、アイクレオ赤ちゃんミルクにおいては、調べた牛乳乳製品サンプルの中では、高いSARS-CoV-2 活性(50%効果濃度: EC50=1,355μg /mL)が検出された。
さらに、牛乳乳製品の抗SARS-CoV-2活性の抑制機構を調べるために、SARS-CoV-2の侵入過程を評価するシュードタイプ水疱性口内炎ウイルスを用いて牛乳乳製品サンプルのSARS-CoV-2の侵入抑制効果を調べた。すると、明治プロビオヨーグルトR-1 (EC50=1,744μg /mL)、ヤクルト(EC50=3,475μg /mL)において、SARS-CoV-2の侵入過程を抑制することが分かった。高い抗ウイルス活性が見られたアイクレオ赤ちゃんミルクにおいては侵入抑制が見られなかったことから、アイクレオ赤ちゃんミルクは侵入過程ではない別のウイルス複製過程を抑制する可能性が考えられた。今後は、さらに抗ウイルス活性の高い牛乳乳製品を探索するとともに、アイクレオ赤ちゃんミルクに含有する抗ウイルス活性を持つ化合物を同定していく。
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