牛乳及び乳製品はコリン化合物摂取に役立つか?
2020年
著者:大久保 剛
所属:仙台白百合女子大学 人間学部 健康栄養学科
【緒言】
コリンは、4級アンモニウムカチオンでメチル基を有する化合物である。コリンは、①⽣体の細胞膜の構造を維持する上で重要であり、②神経伝達物質のアセチルコリンの前駆物質の役割を担い、③One carbon metabolismいわゆるメチル基の代謝系でメチル基を供給する代謝サイクルにおいて重要な役割を果たし、エピゲノムへの関与が指摘されている。
このため、アメリカではビタミン様物質に分類されている。適正摂取量(Adequate Intake:AI)として成⼈男性500㎎/⽇、成⼈⼥性 425㎎/⽇と定められている。特に、胎児や乳児の脳の構築に重要な役割を果たしていることが指摘されているため、妊婦は450㎎/⽇、授乳婦は550㎎/⽇と成⼈⼥性よりも摂取量は多く設定されている。⼀⽅、コリン⽋乏を起こすと肝機能障害を引き起こし、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼとアラニンアミノトランスフェラーゼの上昇が知られている。 しかしコリンの合成に関して、de novo の合成系はあるが肝臓以外の臓器で殆ど合成することができないため、⾷事摂取で補う必要があるとされている。それにも関わらず、⽇本では、⾷事摂取としてのコリンに関する研究報告は殆どなく、コリンの推奨量はまだ定められていない。
コリン化合物は、⽔溶性物質のグリセロホスホコリン、遊離コリン、脂溶性物質のホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンなどがある。⾷品の中では、⼤⾖、卵、⽜乳に豊富に含まれている。アメリカでは、コリン化合物の摂取を推奨しているため、アメリカ農務省では、USDA Database for the Choline Content of Common Foodsがインターネット上に公開されアメリカの主要⾷材に含まれる6種類のコリン化合物の含有量が掲載されている。
我々は、既にA⼤学の⼥⼦学⽣19名とB⼤学の男⼦学⽣17名に対し、季節変動を考慮して春夏秋冬で各3⽇間、における留め置き法を実施した。その結果、どの季節においても男⼥ともにアメリカのAIに⽐べて50~60%の摂取量であった(データ未発表)。限界点として、アメリカ⼈と⽇本⼈の⾷⽣活の違いから、70⾷材しかデータベースよりコリン含有量が算出できていない。また、アメリカのAIを単純に⽇本⼈にあてはめることは出来ない。しかし、これらを⼗分に考慮しても⽇本⼈はコリン摂取量が不⾜している可能性が⽰唆される。
今回は、乳製品がコリン化合物の補給に役⽴つか検証する。また、コリン摂取とアセチルコリンの関係性に着⽬した。⽇本は、統計的に⾒て不眠⼤国であり、4⼈に1⼈が睡眠に関する不満を抱えていると⾔われている。そこで、睡眠の機能にはコリン作動性細胞が関わっていることが知られているため、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンを豊富に含む⾷品、特に⽜乳を⻑期摂取した時に睡眠にどのような影響を与えるか検証した。