2020年
著者:中村彰男
所属:実践女子大学 生活科学部

  • 健康科学
  • 精神・神経・睡眠・脳機能・認知機能
  • 生活習慣病予防

【要旨】

食の欧米化や晩婚化により、糖尿病妊娠や妊娠糖尿病を罹患する母親が増加している。母体の高血糖は胎盤を通じて子宮内高血糖環境を形成し、胎児に影響を与えるが、この環境に曝された胎児にどのような臓器異常が発生し、その原因となる分子基盤については、未だ十分に解明されていない。これまでの研究で、独自の糖尿病妊娠モデルラットを用いたところ、糖尿病妊娠モデルラットから生まれた仔の大脳では、神経細胞やアストログリア細胞において多くのタンパク質が過剰なAGEs(Advanced Glycation End Products)化を受けていることが明らかになった。

そこで、神経細胞とアストログリア細胞を高グルコース培地に曝すことで細胞モデルを構築し、分子レベルでの解析を行った。その結果、高血糖環境がもたらすAGEs化による炎症シグナルが脳神経タンパク質の変性を介してアポトーシスを引き起こすことが示された。さらに、この細胞障害は、n-3系不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)や、n-7系不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸により改善されることが分かった。

次に、これらの分子メカニズムをさらに解明するため、次世代型シーケンサーを用いて網羅的遺伝子解析を行った。その結果、パルミトレイン酸には、体内でパルミチン酸から生合成されるシス型と、乳製品などに含まれ体内では生合成できないトランス型があり、これらの異性体により作用が異なることが明らかになった。今後は、プロテオームやメタボローム解析を組み合わせたオミックス研究を進め、分子機序のさらなる解明と、妊婦が摂取可能な食品成分の探索研究に応用していきたいと考えている。

2024年12月23日