2020年
著者:宮川尚子
所属:慶応義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学

  • 健康科学
  • 生活習慣病予防

【要旨】

背景・目的:自然災害被災者は、災害に伴う種々の環境要因の悪循環により、循環器疾患のリスクが高いため、修正可能な食事を含む予防因子の特定が重要である。これまでのところ、被災者における乳製品摂取と高血圧リスクとの関連は明らかにされていない。本研究では、高血圧有病率と乳製品摂取の関連を住居形態に注目して横断的に、また震災後7年間の高血圧新規発症と乳製品摂取の関連を縦断的に検討した。

方法:東日本大震災被災者コホートRIAS研究のベースライン調査に参加した9,569人(横断研究)および、その後7年間の追跡調査に参加した4,475名(縦断研究)を対象とした。高血圧は、収縮期/拡張期血圧140/90mmHg以上、または治療中と定義した。乳製品の摂取頻度は自記式質問票を用いて得た。仮設住宅と避難所の居住者を仮設住宅居住者と定義した。高血圧新規発症は毎年の健診データを用いて得た。ベースライン時の住居形態別、乳製品摂取頻度別の高血圧有病オッズ比をロジスティック回帰モデルで算出した(横断研究)。また、乳製品摂取頻度別の高血圧新規発症ハザード比をCox比例ハザードモデルで算出した(縦断研究)。

結果:ベースライン時の高血圧有病率は、仮設住宅居住者43.8%、非仮設住宅居住者44.7%であった。横断研究では、高血圧有病の多変量調整オッズ比[95%信頼区間]が、1日1回以上乳製品を摂取する者で非摂取者に比べて有意に低く、関連の大きさは住居形態により異なっていた(仮設住宅居住者:0.64 [0.51-0.80]、非仮設住宅居住者:0.85 [0.73-0.995]、P for interaction=0.0501)。縦断研究では、総追跡期間は20,042人年で、追跡期間の中央値は5.4年であった。追跡期間中1,554人が高血圧を新規発症した。高血圧新規発症の多変量調整ハザード比[95%信頼区間]は、1日1回以上乳製品を摂取する者(0.82,[0.72-0.94])で非摂取者に比べて有意に低かった。これらの負の関連は、横断研究、縦断研究ともに、性、年齢、生活習慣、心代謝因子、および経済状態で層化しても変わらなかった。

結論:乳製品の摂取頻度が高いことは、地震・津波の被害を受けた地域住民における高血圧のリスク低減と関連していることが示された。本研究の結果より、乳製品の摂取は、大規模自然災害後の循環器疾患および高血圧のリスクが高い被災者において、高血圧のリスクを低減するための修正可能かつ簡便で有効な予防因子となる可能性が示唆された。

 

2024年1月17日