2020年
著者:木村 安美
所属:九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター

  • 健康科学
  • 高齢者
  • 骨・筋肉・体脂肪量調節・運動機能・スポーツ

【要旨】

目的:わが国の高齢化が世界に例をみない速度で進行している中、高齢者が住み慣れた地域で自立して暮らし続けるための方策を明らかにすることは重要である。しかし、地域高齢者における牛乳・乳製品の摂取とサルコペニア発症について検討した報告は極めて少ない。本報告では、福岡県久山町で行われている追跡調査(久山町研究)の成績を用いて、地域高齢者における牛乳・乳製品摂取がサルコペニアの発症に及ぼす影響を検討した。

方法:2012年と2017年に久山町の65歳以上の全高齢住民を対象として実施された調査(以下、高齢者調査)の両方の調査に参加した65歳以上の高齢住民のうち、サルコペニアを発症しておらず2012年に栄養調査を受けた879名を5年間追跡した。牛乳・乳製品の摂取量は半定量式食物摂取頻度調査票を用いて算出し、栄養素密度法を用いてエネルギー調整後4分位に分けて検討した。サルコペニアはAWGS 2019基準を用いて筋量および筋肉機能がともに低下したものと定義した。生体電気インピーダンス分析法で測定した骨格筋指数が低下したものを筋肉量低下、握力低下または歩行速度低下を有するものを筋肉機能低下と定義した。サルコペニアは、2012年、2017年の2点間で評価した。オッズ比の算出にはロジスティック回帰分析を用いた。

結果
牛乳・乳製品摂取とサルコペニアの発生との間に有意な関連を認めなかった。サルコペニアの構成因子である筋肉量、握力、歩行速度についても牛乳・乳製品摂取との関連の検討を行ったが、同様に有意な関連を認めなかった。

結論:わが国の地域高齢者を5年間追跡した検討では、牛乳・乳製品摂取量とサルコペニア発生リスクとの間に明らかな関連は認めなかった。

2025年5月12日