地域在住高年者における乳製品及び短鎖脂肪酸摂取、血清脂肪酸と認知機能に関する長期縦断疫学研究
2014年
著者:大塚礼
所属:独立行政法人国立長寿医療研究センターNILS-LSA活用研究室
要旨
本研究では、地域から無作為抽出された中高年者約2,300 名(観察開始年齢40-79歳)を対象とした「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」において、認知機能障害スクリーニング検査を施行した60 歳以上の高齢男女約1,100 名を解析対象とし、牛乳乳製品と、牛乳乳製品に特徴的な酪酸、ヘキサン酸などの短鎖脂肪酸、牛乳乳製品に豊富に含まれる中鎖脂肪酸に着目し、これらの摂取量または血中脂肪酸濃度と認知機能との関連を明らかにすることを目的とした。
牛乳乳製品や短鎖脂肪酸などの摂取量は食物摂取頻度調査票と3 日間の写真撮影を併用した食事秤量記録調査から、血清脂肪酸は空腹時採血による血清脂肪酸24 分画の測定値から、認知機能は臨床心理士など心理学専攻専門調査員の面接による認知機能障害スクリーニング検査と、医師による頭部MRI 画像の所見の両者から評価した。摂取量と認知機能の関連は、第1 次調査(1997-2000)から第7 次調査 (2010-2012)の13 年間の縦断データを用いて、血清脂肪酸24 分画は第5 次調査(2006-2008)以降計測しているため、第5 次と第7 次調査の4 年間の縦断データを用いて解析した。
その結果、女性において乳類の摂取が1 標準偏差(128g/日)上昇すると8 年間に認知機能得点低下リスクが20%抑制された。また多変量を調整した鎖長別の脂肪酸摂取量と8 年間の認知機能得点低下リスクの検討では、短鎖(181mg/日)または中鎖脂肪酸1SD(232mg/日)上昇に伴い、認知機能得点低下リスクは14%または16%低下した。しかし、血清脂肪酸24 分画の濃度と約4 年間の認知機能得点低下リスクでは、乳製品に豊富に含まれる一価不飽和脂肪酸濃度など、リスクとの間に有意な関連性は認められなかった。
一方、女性では100g/日以上の牛乳摂取が13 年後の脳萎縮と負の関連を示した。乳類摂取量が高い者では他の食生活習慣が好ましい可能性があるため、他の食習慣を調整すると認知機能低下抑制効果は減弱した。本研究対象者の食事記録から、乳類をほとんど摂取していない(50g/日未満)高年者は約3 割と少なからずいたことから、健康上あるいは嗜好上の問題が無い場合に、乳類をほとんど摂取しない高齢者に乳類摂取を促すことは認知機能低下抑制効果を認める可能性が示唆された。
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