日本乳業史
1960年
著者:日本乳製品協会
所属:日本乳製品協会
雑誌名・年・巻号頁:日本乳製品協会編、日本乳製品協会、1960年、292p
<要約>
本書は、日本乳製品協会がまとめた、明治初期から1957年にかけての製乳業全体の歴史である。日本乳製品協会は、1917年に大日本煉乳同盟会として発足し、大日本煉乳協会(19年)、大日本製乳協会(24年)、大日本製酪業組合(40年)へと改組した。その後、第二次世界大戦後に日本乳製品協会として復興し、2000年には全国牛乳協会等と統合して日本乳業協会となっている。
明治時代以降、製乳業界が一貫して取り組んだのは輸入防遏、外資進出への反対と国産乳製品の奨励だった。当時、乳製品として最も多く生産されていたのは煉乳だったため、1900年代に入って砂糖消費税が導入されると砂糖を主原料とする煉乳業者は畜産業界と連携して議会に請願を行い、1908年には煉乳原料砂糖戻し税法を成立させた。製乳業界はその後輸入防遏のため、たびたび輸入品の煉乳への関税引上げ運動を行っている。昭和初期には、世界最大の乳製品メーカーであったネスレ社が2度、また無糖煉乳を扱うアメリカのカーネーション社も1度日本進出を試みたが、製乳業界の大きな反対でどちらも失敗に終わった。昭和期を扱う各社社史にはそれぞれの企業が品質改善と国産品愛用の宣伝を熱心に行っていることが書かれているが、本書をみるとこれが業界全体で歩調を合わせた取り組みだったことがわかる。
<コメント>
本書は、刊行後すでに50年以上たっているが、製乳業の産業・経済史研究にとっては今も重要である。それは、第一に当該期の製乳業界全体の動向が追えるため、第二に合併や倒産などによって現在既に無い企業の動向にふれているためだ。後者についていえば、明治初期の山口県での煉乳製造や、ネスレ社への合併に一度は合意した北海道煉乳(大日本乳製品)、明治製菓に合併された北陸製乳などをはじめ、既にない企業の名称と動向にふれている。これらの企業の中には現在、営業報告書が読めるものもある。今後は、本書を手掛かりに歴史に埋もれた企業を分析した上で、今もなお存続する企業の経営と比較すれば、経営史的に明らかになる部分も多いと考えられる。