思い出牛乳箱
2008年
著者:横溝健志
所属:武蔵野美術大学教授通信教育課程(生活環境デザイン)担当
雑誌名・年・巻号頁:ビー・エヌ・エヌ新社、2008年、全175頁
<要約>
牛乳店・宅配業者が牛乳ビンを使って宅配するようになると、宅配を受ける各家庭には牛乳の受け箱が置かれることとなった。牛乳箱は、1970年代後半に大手乳業メーカーが紙容器を採用したこと、スーパーマーケットなどを通じた流通経路の確立によって役目を終えたため(本書4~5ページ)、現在では目にすることが少ない。
本書は、現在でも全国に残っている牛乳箱の写真集である。175ページの分量があるが、4~5ページに「牛乳宅配の変遷」、166~173ページにあげられた配達業者のブランド名一覧、174ページに受け箱を作成する中島木箱工場の紹介があるほかは、全てカラー写真で占められている。雪印・明治・森永・グリコ・名糖など大企業の牛乳箱から、ローカルなブランドの牛乳箱が都道府県別に整理され、珍しい自家製の箱も掲載されている。
たとえば、大阪のページには「ライフ牛乳」「いかるが牛乳」「毎日牛乳」「片岡牛乳」「新泉牛乳」の箱が紹介されている。さらに「いかるが牛乳」のなかでも白と青の2種類6箱、「毎日牛乳」4種類(うちひとつはハート型の絵がついている)があり、「片岡牛乳」と「新泉牛乳」の箱には「綜合ビタミン配合」「新泉ソフト牛乳」など牛乳の種類がわかるようになっている。同じ牛乳店・宅配業者の箱も1つのデザインではなく、牛乳の種類がわかるようにも工夫されていることがわかる。
これら宅配受け箱は明治30年頃から始まったのではないかと考えられており(大正5~6年説もある)、当初は消費者の便利とともに宣伝の意味があったようだ。筆者は、当時は牛乳が高かったから、箱の設置は消費者にとっても誇らしかったのではないかと予想している。
<コメント>
この写真集は牛乳箱に目が行きがちだが題名に「思い出」を冠していることからわかるとおり、写真をみることで牛乳が配達されていた時代の文化にも思いをはせることができる。牛乳箱だけではなく、牛乳箱のある風景(たとえば、牛乳箱に乗る猫の写真、植木鉢や草花と一緒にうつった写真)を撮っているからだろう。また、宅配業者のブランド名一覧は有用でこれからの研究の糸口となろう。やはり企業名がわからないと経営史的分析は不可能だからである。さらに、牛乳ビンの採用と牛乳箱の普及はある程度併行して進んだと考えられるので、牛乳ビンへの変化と牛乳箱の普及とを突き合わせていく作業が必要となるだろう。(尾崎 智子)