2011年
著者:小林信一(編著) 日本大学生物資源科学部
所属:日本大学生物資源科学部
雑誌名・年・巻号頁:筑波書房、2011年6月、226p

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

<要約>

 課題:近年における飼料価格高騰・消費減退・輸入自由化の進展を受けて、酪農乳業政策と生産者団体、生乳共販の現状と課題を整理し、日本酪農の持続的発展のために必要とされる政策的バックアップの枠組みを検討する。
 結論:酪農が日本に存在することは、重要な食料の提供、雇用の創出、食と命の教育、地域の農地や環境の守り手、などから社会的に意義がある。以上を踏まえて、①酪農の果たす外部経済に対する直接支払いと、②産業としての酪農の安定的な発展のための制度政策の2段階に分けて制度政策を組み立てるべきであると考える。
 第1に、農地管理に対する直接支払いを行い、自給飼料生産に基づいた酪農振興を図る必要がある。農地として維持される全ての農地を対象に、農地の多面的機能(外部経済)に対する直接支払いを求める。現在の米を代表とする耕種生産の需給状況・収益状況および担い手の現状を踏まえると、農地の活用は水田や耕作放棄地も含め、畜産的な利用が最適である。畜産的利用とは、水田放牧を含む家畜の放牧や、水田における飼料用イネ、飼料用米の栽培を含む飼料生産のことである。この際、考慮すべきことは、田畑などの地目や栽培作物による支払単価の格差を、なくすか、少なくとも最低限に抑えることである。その一方で、農地としての管理・転用寄生の厳格化、環境支払いとのリンクやプレミア支払なども考慮されるべきである。
 第2に、経営の長期的な見通しが可能で、自由化に対応できるセーフティネットとして、現行加工原料乳生産者補給金制度を補完する酪農家所得補償制度の導入を求める。現行の補給金制度はコスト上昇の一部しかカバーできない固定的支払いであり、酪農経営のセーフティネットとしては不十分であるほか、都府県酪農を十分にカバーするものではない。酪農家の受け取り乳価や生産コストが地域によって大きく異なっている状況では、それにかかわらない所得を補償するほうが、日本酪農を全体として支持できることになる。所得補償方式としては、全ての酪農経営を対象に、参加は任意とし、掛け金方式とすることが望ましい。一種の所得保険である。平成19年度および20年度は所得が家族労働費を大幅に割り込んだことで明らかなように、酪農部門にも最低所得補償制度が不可欠である。補償の内容は、家族労働費(他産業従事者の平均賃金×酪農労働時間)の平均額(例えば7カ年平均)とし、所得が物材費部分も割り込む赤字の場合は、物材費部分を加えた額を補填する。つまり、平均的な生産費をカバーするものとする。補償は全国一律で行うのではなく、地域別の収益性に大きな格差が存在するため、各地域の多様な酪農経営の存続・発展を図る見地から少なくとも指定団体ブロック別に補填する制度とする必要がある。

<コメント>

本書は、酪農生産構造、飼料政策、各地の酪農協と生乳共販の動向、海外の動向といった豊富な事例分析を通じて、既存の酪農乳業政策の問題点を全般的に明らかにしている。特に、不足払い制度を中心とした現在の政策体系では酪農経営の持続性を支えるには不十分であり、新たな政策体系の提案を行っている。提案内容は具体的かつ実現性のあるものであり、新たな酪農政策を考えるうえで必読の書である。
 

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2015年9月21日