2012年
著者:外園智史1・前田幸嗣2
所属:1九州大学大学院農学研究院・助教 2九州大学大学院農学研究院・准教授
雑誌名・年・巻号頁:農業経済研究、84(3)、2012年12月、157−171

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

<要約>

 課題: WTO・ドーハラウンド農業交渉では、輸出補助金、ならびに輸出補助金と同等の効果を有するその他の輸出措置(一元的な輸出を行う輸出国家貿易企業など)についても、輸出補助金と同様かつ並行的に、言い換えると「パラレリズム」に基づき、輸出規律を確保することが合意された。本論文では、輸出補助金および輸出国家貿易企業を対象に、パラレリズムに基づく輸出規律の確保(=輸出補助金撤廃および輸出国家貿易企業解体)が農産物貿易に対しどのような効果をもたらすか、脱脂粉乳を事例とした計量分析を行う。
輸出補助金、輸出国家貿易企業および不完全競争を同時に含む空間均衡モデルを新たに展開して、パラレリズムに基づく輸出規律確保の貿易効果について、政策シミュレーション分析を実施する。
結論:本論文では以下の点が明らかとなった。
第1に、脱脂粉乳の市場構造が、相対的には完全競争に近いものの不完全競争的であり、特に、乳業の寡占化が進行しているアメリカと日本、ならびに、輸出国家貿易企業を有するニュージーランドの不完全競争度が高いことを明らかにした。また、カナダについては、輸出国家貿易企業を有するものの、不完全競争度はニュージーランドほど高くはなく、高い需要の価格伸縮性が相乗的に作用することによって、高い市場価格およびプール価格を実現していることがわかった。
第2に、政策シミュレーション分析の結果として、EUの輸出補助金とニュージーランド、カナダの輸出国家貿易企業がともに、脱脂粉乳の国際貿易を歪曲する効果をもつこと、および、その歪曲は、パラレリズムに基づく輸出規律の確保によって大きく是正されることを明らかにした。具体的には、輸出規律が確保されると、EU、ニュージーランドおよびカナダからの輸出は減少する一方で、アメリカや日本など、前述3カ国以外の国々の酪農家に対しては、純輸出の拡大ないし純輸入の縮小のメリットがもたらされる。また、EUがパラレリズムに基づく輸出規律確保を主張する根拠と、それにカナダが応じようとしない根拠を計量的に明らかにした。WTO農業交渉においては、EUは、そのメリットを享受するアメリカや日本の後押しを受け、今後もパラレリズムを主張すると思われる。

<コメント>

輸出国の輸出補助金、ならびにそれと同等の効果を有する輸出国家貿易企業の存在による貿易歪曲効果が計量的に明らかにされ、その歪曲効果の大きさは無視できないことがわかる。特に、日本に関しては、輸出規律が確保されると、脱脂粉乳の純輸入が13.7%、20.4%それぞれ減少すると試算されている。TPPがまさにそうだが、ニュージーランドやカナダと貿易自由化交渉を行う場合、日本国内への影響を緩和するために、当該国の輸出国家貿易企業の扱いを交渉材料とするとの示唆も得られるだろう。

書籍ページURL https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000lg1w.html

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2015年9月21日