酪農協の経営問題と合併効果-新潟県内の事例から- [Operational problems at dairy agricultural cooperatives and the effects of mergers: focusing on case studies from Niigata Prefecture ]
2012年
著者:張鎮奎・伊藤亮司・青柳斉 新潟大学大学院自然科学研究科
所属:新潟大学大学院自然科学研究科
雑誌名・年・巻号頁:農林業問題研究、48(3)、2012年12月、42_53
<要約>
課題:酪農協の経営分析を通じて、近年の酪農協経営の問題状況と合併の経営効果について解明する。新潟県の個別事例農協を対象に、主に合併前後の財務諸表分析により、合併の経営効果を損益レベルで確認する。さらに、酪農協固有の経営問題の解明とともに、関連して旧酪農協の信用事業県営の意義についても検討する。
結論:合併の契機としては、実質的に経営破綻に陥った農協の救済策という例もあるが、生乳出荷戸数の減少や事業量縮小に伴う経営規模の零細化で、農協組織としての存続や指導事業など各種事業機能の発揮ができない状況に追い込まれたことが主な要因である。そして、合併以後の職員の大幅な削減や事業の縮小、ヘルパー組合の自主運営化などのリストラによって、一時的には経営収支の改善や事業規模の維持・拡大を実現する。ところが、その後の生乳出荷農家や事業量の継続的な減少は、合併による経営効果を相殺してしまう。そのことが、新たな再合併へと向かわせる。要するに、合併による即時的な収支改善効果とその限界を指摘できる。
なお、専門農協であっても、必ずしも生乳共販や飼料購買等の酪農関連事業だけで経営を維持しているとはいえない。事例農協のように、経営収支において、「本業」の経営成果である事業損益は赤字で、土地賃貸料や共済手数料、雑利息、受取配当等の事業外収入に大きく依存している。このような経営収支の状況は、信用・共済事業の収益で農業関連事業部門の赤字を補填している総合農協と類似している。極論すると、組織面では専門農協ではあるが、経営収支面では「兼業」及び「付帯」事業の「総合」経営で存立しているともいえよう。
この点に関連して、旧下越酪農協の事例から信用事業兼営の経営効果を改めて評価すると、当農協の場合、信用部門は事業総利益で約2割を占め、収益面で農協経営に貢献していたように思われる。ただし、合併前の不良債権処理問題を合併以後も引きずっており、信用事業兼営時代の「総合経営」効果を単純には評価できない。同様の状況は、購買貸付けや経済未収金処理での信用供与についても当てはまる。現在の酪農にいがた農協の場合、「購買貸付未収金」は実質的な「融資」事業であり、その利息収入は農協経営にも貢献している。しかしながら、一方で全額引当の「個別貸倒引当金」が逓増しており、今後の未収金管理の如何によっては、「融資」事業は農協経営の重荷にも転化しかねない。
<コメント>
酪農協は、酪農家を身近でサポートできる、酪農家にとって最も重要な組織である。しかし、酪農家戸数の減少により、酪農協の弱体化が進行している。本論文では、現状の広域合併による効果は一時的にすぎず、また、信用事業など経済事業外収益への依存が指摘されている。生乳生産基盤維持・強化のためには酪農協の体制強化が必須だが、抜本的な改革の必要性を認識させられる論文である。