2012年
著者:佐藤健太郎
所属:関西大学東西学術研究所 非常勤
雑誌名・年・巻号頁:関西大学東西学術研究所編『関西大学東西学術研究所紀要』.2012;45:47-65.

  • 社会文化
  • 食文化

<要約>

 本論文は、「牛乳・乳製品の木簡・墨書土器・弘仁式逸文などの新出史料」をもとに、古代における牛乳・乳製品の利用状況、貢進体制について報告した論考である。第一章は、古代の牛乳・乳製品(酪・蘇・乳脯)それぞれの利用状況について考察。先行研究を引用しながら、仏教儀式や宮廷儀式などで用いられ、また(主に貴族の世界で)薬用として認識されていた乳製品の実態について、新出史料に基づく筆者自身の見解を展開させている。また第二章では「奈良時代の乳・乳製品の貢進体制」、第三章では「平安時代の牛乳・乳製品の貢進体制」について焦点をあて、諸国の貢進状況について分析している。特に当時、儀礼における乳製品の需要はかなりの高まりをみせており、乳戸(乳長上のもとで、牛乳・乳製品の製造に携わった機関)での生産では追いつかず、諸国で「日持ちのする蘇」を生産・貢進させる措置が命ぜられていたという。また「蘇」の墨書土器の出土で、諸国では「牧」を管理する各集落にて製造されていたことを指摘。さらに弘仁式逸文の発見により、延喜式制以前の弘仁式制の蘇の貢制体制の実態が判明し、当時粗悪な蘇の献上が相次ぎ、貢蘇の時期も徹底していなかった状況にあったため、朝廷が粗悪な蘇の貢進・違期した国司に厳罰を科し、対応していたことも明らかにされている。

<コメント>

古代日本の乳製品研究(論文)には、東野治之・池山紀之「日本古代の蘇と酪」(『奈良大学紀要』(10):1981;pp.30₋38)、中村修也「日本古代における牛乳・乳製品の摂取」(『風俗:日本風俗史学会会誌』26(4):1987;pp.8-20)、斎藤瑠美子・勝田啓子「日本古代における乳製品酪・酥・醍醐等に関する文献的考察」(『日本家政学会誌』39(1):1988;pp.71-76)・「日本古代における乳製品「蘇」に関する文献的考察」(『日本家政学会誌』39(4):1988;pp.349-356)・「『延喜式』に基づく古代乳製品蘇の再現実験とその保存性」(『日本家政学会誌』40(3):1989;pp.201-206)などが挙げられる。さまざまな類の新出考古資料を基に、古代の日本人と乳製品の関わりを説いた筆者の功績は、最新の日本の乳製品の起源を辿る研究としても評価に値するだろう。今後のさらなる成果にも期待したい。

書籍ページURL https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000j5tk.html

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2015年9月21日