2016年
著者:大江 靖雄
所属:千葉大学大学院園芸学研究科

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

研究成果報告要旨

 問題意識
貿易自由化の進展で、酪農製品の輸入拡大による国産乳製品との競争の激化が予想されており、酪農経営多角化について本格的検討の必要な時期を迎えている。しかし、多角化した酪農経営の効率性についての研究成果は、国内はもとより海外においても見当たらない。そこで、本研究では、酪農教育ファームの経営多角化が経営の効率性へ及ぼす効果を、聞き取り調査と取得した財務データから初めて解明した。

データ・方法

具体的には、調査協力を得た首都圏近郊の酪農教育ファーム 11 戸から取得した 27 期分の財務データを対象とした。酪農家経営へのアイデンティティの違いが効率性に差異をもたらすとする仮説と理論的フレームワークを構築して、DEA(data envelopment analysis)モデルで、経営多角化(加工販売の実施の有無で区分)有無による経営効率性を評価した。

分析結果

第一に、アイデンティティの概念を導入して、アイデンティティの違いがどのように経営効率性の違いをもたらすのかを考察して、需要創造と費用低下の効果の両面から経営効率性の違いをもたらすことを理論的に明らかにした。第二に、複数の DEA モデルによる計測結果、加工販売部門を有する経営では、統計的に有意に効率性が高いことを解明した。第三に、経営規模と多角化の効率性との関係には、統計的な関連性は確認できなかった。つまり、小規模経営の多角化という方向性は検出されない。

政策的インプリケーション
第一に、酪農教育ファーム活動がそのネットワークでの社会的学習の機会をもたらすことで、多角化の促進要因となっていることと、効率的な経営の実現をもたらしている事実は、一般酪農家の参加を促進するために、広く広報して共有されるべき有益な情報である。第二に、得られた理論的フレームワークとエビデンスは、酪農経営の多角化の問題を、酪農政策の中で明確に位置づけることが、政策的にも意義があることを示している。第三に、多角化の展開には、従来の生乳生産のみの経営者の視点から、さらに広い視野から経営資源マネジメントを可能とするアイデンティティの拡大が必要である。そのポイントは、需要拡大と費用削減であり、アイデンティティ形成の問題を経営政策に加えて、そのための経営者能力の育成支援をより重点的に行う必要がある。

本研究の課題

今回の分析は首都圏近郊を対象としたため、他地域(特に大規模酪農地帯)においても検証を行い、一般化を図る必要がある。
 
※ 研究報告書本文は、別途掲載する予定です。

2017年12月11日