2009年
著者:大日向耕作
所属:京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻

  • 健康科学
  • 精神・神経・睡眠・脳機能・認知機能

要約

乳由来成分の精神的ストレス緩和作用(抗不安作用)を、マウスを用いた行動学的実験により検討したところ、複数の低分子ペプチドが抗不安作用を示すことを見出した。そのなかで、乳タンパク質の一次構造中に多数含まれるジペプチドTyr-Leu(0.1 mg/kg, i.p.)が最も強力な抗不安作用を示し、その作用は現在広く使用されている抗不安薬のジアゼパムに匹敵した。さらに、本ペプチドは経口投与で有効であった。構成アミノ酸のチロシンとロイシンの混合物には抗不安活性が認められなかったことから、ジペプチドとして作用しているものと考えられる。また、レトロ配列ペプチドのLeu-Tyrには活性が認められなかったことから、Tyr-Leu配列が重要であることがわかった。さらに、構造-活性相関を検討し、Tyr-LeuのN末端側へのアミノ酸付加により、著しく抗不安活性が低下する一方、C末端側へのアミノ酸付加は許容されることを明らかにした。
次に、情動調節に重要な神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミン、γ-アミノ酪酸(GABA)の関与を種々の受容体アンタゴニストを用いて検討した。Tyr-Leuの抗不安作用は、セロトニン5-HT1A受容体、ドーパミンD1受容体、GABAA受容体のアンタゴニストにより完全に阻害された。しかしながら、Tyr-Leuはこれらの受容体には親和性を示さなかったことから、セロトニン、ドーパミンおよびGABAの放出を介して、抗不安作用を示すことがわかった。さらに、これらの受容体に対するアゴニストおよびアンタゴニストを用いて、5-HT1A受容体、D1受容体、GABAA受容体の順番に活性化されることを明らかにした。以上の結果より、Tyr-Leuは5-HT1A受容体 → D1受容体 →GABAA受容体の活性化という新規神経伝達経路を介して強力な抗不安作用を示すことを明らかにした。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001mnub.html
キーワード:
精神的ストレス緩和作用牛乳タンパク質ジペプチドTyr-Leu

2015年9月18日