2008年
著者:五関正江
所属:日本女子大学 家政学部 食物学科 栄養学研究室

  • 健康科学
  • 生活習慣病予防
  • 骨・筋肉・体脂肪量調節・運動機能・スポーツ

要約

【目的】牛乳・乳製品に含まれるラクトース(乳糖)は、カルシウム吸収促進や骨代謝改善効果が報告されてきたが、そのメカニズムについては未だ不明な点が多い。われわれは先行研究において、高脂肪食にラクトースを添加して長期間(85日間)飼育することにより、ラクトースによる骨密度増加やカルシウム吸収促進作用だけでなく、抗肥満作用、血清トリグリセリドならびに血糖値低下作用、さらに血中活性型ビタミンD濃度低下作用などを明らかにした。そこで、今回、ラクトースによる脂質・糖質・ミネラル代謝に対する影響について、さらに詳細に検討するため、ラクトース短期投与実験系を用いて、腸管や腎臓に存在する脂質代謝あるいはミネラル代謝に関わっている可能性が示されている小腸型アルカリホスファターゼ(ALP)遺伝子発現レベルの比較検討を中心に、ラクトース投与による作用メカニズムを明らかにすることを目的とした。
【方法】6週齢のSD系雌ラット69匹をコントロール(Cont)群、ラクトース投与(Lac)群、高脂肪食(Fat) 群、および高脂肪食にLacを添加した(Fat+Lac) 群の計4群に分け、実験食投与後7日目、14日目に採血し組織のサンプリングを行った。小腸、肝臓、腎臓のALP活性測定や臓器非特異型ALP(TNSALP)・小腸型ALP遺伝子(IAP-l, IAP-2) に特異的なプライマーを用いたReverse Transcription-Polymerase Chain Reaction (RT-PCR)分析、7日目と13日目に24時間尿および糞を採取し、カルシウム量を測定した。
【結果】実験食投与14日目において、腎臓のALP比活性がLac群でCont群に比べ、有意に上昇し(p<0.01)、Fat+Lac群においても、Fat群に比べ、有意な高値を示した(p<0.05)。RT-PCR分析によるラクトース投与のALP遺伝子発現への影響は、TNSALPのPCR産物では4群間で特に差は認められなかったが、小腸型ALP(IAP-1)でLac群とFat+Lac群の両群でCont群に比べ、mRNAの顕著な発現増強が認められた。また、尿中カルシウム排世量において、7日目および13日目ともにLac群がCont群に比べ、有意に高値を示した(p<0.05)。
【結論】腎臓は、カルシウム・リンなどのミネラル排世の調節だけでなく、ビタミンDの活性化、血圧調節など生体内における重要な臓器であり、生活習慣病発症とも関わりが深く、今回、ラクトース短期投与により腎臓中のALP活性が上昇し、ALPのmRNAの発現が増強されたことは驚くべき結果であった。今後、さらに腎臓におけるALP活性誘導機序を明らかにすることにより、ラクトース投与による脂質代謝、糖質代謝、ミネラル代謝などへの作用メカニズムの解明につながる可能性が期待された。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001ahym.html
キーワード:
ラクトースアルカリホスファターゼカルシウム脂質

2015年9月18日