2006年
著者:伊木雅之
所属:近畿大学医学部公衆衛生学

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

緒言

日本の平均寿命は平成2005年には男性78.5歳、女性85.5歳となったが、今なお伸び続け、世界記録を毎年のように更新している。同時に65歳以上のいわゆる高齢人口も増え続け、全国値で21.0%、2030年には31.8%、2052年には40%になると推計されている。人類が未だかつて経験したことのない超高齢社会は目前である。
元来、長生きすることは良いことで、長寿は人々の夢であった。長生きは長寿であり、本来、寿ぐべきことである。しかし、超高齢社会の現実が見えてきた現在、高齢者の多い社会に喜ばしいイメージを持つ人は少なくなり、いつしか超高齢社会とは呼んでも、長寿社会とは呼ばなくなった。確かに人口の40%の高齢者を50%あまりの生産年齢人口が経済的に支えるのは難しい。年金、医療、介護、住宅、就労、生き甲斐など高齢者を巡って社会のリストラクチャが必要である。
すでに年金制度の改革は始まっているし、医療についても現行の老人保健法による医療は今年度末で廃止され、高齢者の医療の確保に関する法律による新しい老人医療制度が施行される。しかし、制度をどうさわっても入るが減っていずるが増えるので、高齢者にとっては厳しいものになろう。これを少しでも緩和するためには、いずるを減らす対策に力をいれる必要がある。
そのための方策の1つが2000年より始まった「健康日本21計画」で、病気で長生きではなく、健康長寿をめざして、生活習慣病を一次予防することを目的としている。しかし、中間評価によれば、喫煙者は減少しているが、肥満者は増加するなど、効果は必ずしも十分とは言えない。そこで、2008年度よりメタボリック症候群をターゲットにした新しい検診と健康指導がスタートする。実施主体を市町村や雇用者ではなく、疾病予防によって医療費支出を抑制するインセンティブが働く国民健康保険や健康保険組合にすることと、指導対象者を大幅に増やしてハイリスクアプローチを中リスクの者にまで拡大適用する点が新しい。
メタボリック症候群の予防と治療によって減少が期待できるのは、糖尿病とその合併症や動脈硬化をベースにする虚血性神疾患を中心とする循環器疾患である。しかし、ここで注意しなければならないのは、高齢者の自立を阻害し、要介護化のリスクを上げる疾患は心筋梗塞よりは、命は取り留めても障害を残す脳血管疾患や骨折だという点である。さらに、牛乳・乳製品は血中総コレステロールやLDLコレステロールを上昇させ、動脈硬化性の心疾患や脳血管疾患のリスクを高めるとして、メタボリック症候群に対する健康指導の中で摂取が制限される可能性がある。そうなると、日本人の食生活において唯一不足している栄養素であるカルシウムがさらに不足し、骨折・骨粗鬆症が増加する危険もある。
ところが、十分なカルシウム摂取は血圧の安定化を通じて心疾患や脳血管疾患のリスクを低減する可能性もあり、その重要な摂取源である牛乳・乳製品摂取が動脈硬化性疾患に予防的に働くのであれば、上記の憂いを払拭し、骨粗鬆症と動脈硬化性疾患の予防のために牛乳・乳製品摂取を積極的に働きかけるべきである。一方、もし促進的に働くのであれば、骨粗鬆症を予防し、動脈硬化を促進しない摂取量を設定した上で、その範囲での摂取を奨励しなければならない。
そこで、平成8年から始まった大規模無作為標本コホート研究の満10年にあたる2006年に第4回の調査を以下の目的を設定して実施した。
①これまでの調査で得られた骨粗しょう症を予防するための要因の影響を確認し、真に大切なものを明らかにする。
②牛乳乳製品の骨密度、および骨密度変化率への影響を確認する。
③動脈硬化の指標を測定し、牛乳摂取と動脈硬化との関連を明らかにする。
④牛乳の至適摂取量を②と③の結果から導き出す。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001a8l5.html 

2015年9月18日