2003年
著者:山中良孝
所属:岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

目的

正常な骨発育は、小児が健常に発育するために重要であり、これが障害されると骨折を起こす頻度が増加するため、日常生活および学校生活において支障をきたす原因となる。骨粗鬆症の予防は、以前では加齢に伴う骨量の減少を最小波にとどめようという消極的方法に中心がおかれていた。しかし、最近では青年期におけるピークボーンマスを増やすことによって骨粗鬆症を出来る限り予防しようという、より積極約方法に移りつつある。このピークボーンマスを決定する最も重要な因子は、遺伝および人種であるが、これらに加えて栄養因子も重要であることは言うまでもない。
栄養価が高く、安価で一定量を容易に摂取できる牛乳は、様々な栄養素を必要をとする成長期の小児にとって重要な食品である。レトロスペクティブな研究では、中年期以降の女性の骨密度はその人の青少年期の牛乳摂取量と相関があると報告されている。牛乳摂取により骨塩量が増加するのは、豊富に含まれるカルシウム摂取量の増加が一つの原因と考えられている。
牛乳中にはカルシウムの他に、タンパク質、ペプチド、糖質、脂質など様々な生理活性物質が含まれている。牛乳中のペプチドには、成長因子やペプチドホルモンのように微量であるが最初から活性型で存在する顕在型の生理活生ペプチドと、乳タンパク質の如水分解によって派生する潜在型の生理活性ペプチドがある。その中で、存在の確認されているホルモンとして、成長ホルモン(GH)、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、上皮細胞増殖因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、さらに消化管ホルモン(Gastric Inhibitory Peptide、Somatostatin,Vasoactive Intestinal Peptide) などがある。
骨の発育には、IGFが重要で、骨基質中にも大重量に存在する。1GFにはIGF-IとIGF-Ⅱとがあり、両者ともインスリンとの間に50%の相同性を有し、骨における作用はIGF-Iの方が強い。IGF-IはGHにより肝臓あるいは骨局所で産生が促進され、特異的な結合蛋白であるIGF binding protein(1GFBP)により、その作用が調節されている。加齢に伴い、GH、1GF-Iの血清濃度の低下が生じるとともに、骨基質内のIGF-1も同様の変化を示す。骨密度は、血清のIGF-I濃度との間に正の相関が認められる。また、GH分泌不全性低身長児に対するGH補充療法により骨形成が促進される際、血中や尿中の骨代謝マーカーは、骨形成系と骨吸収系の双方とも増加する。つまり、IGF-1は骨代謝を亢進し、骨密度を増加させる作用があると考えられる。
本研究では、小児の骨発育に重要な役割をもつGH-IGF系が、牛乳摂取による骨量増加作用にいかに関与しているか告検討する目的で、牛乳の摂取状況と骨密度を調査するとともに、IGF-Iの血中濃度との相関関係を検討する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021cbk.html 

2015年9月18日