2003年
著者:山田哲雄
所属:関東学院大学人間環境学部健康栄養学科

  • 健康科学
  • 高齢者
  • 骨・筋肉・体脂肪量調節・運動機能・スポーツ

緒言

高齢社会の本格的到来が目前の現在、高齢者の健康の保持・増進および疾病からの回復の問題は極めて重要な課題である。そしてこの問題の解決策として、栄養と運動が大きな柱として位置付けられている。
加齢に伴う骨塩量低下、骨粗鬆症ひいては骨折により引き起こされる寝たきりの問題に対しでも、一次予防の観点から栄養と運動の役割が期待されている。すなわち、栄養面では骨塩量の保持に対してカルシウムや良質たんぱく質が必須であるが、牛乳がその給源として重要な位置を占めることは言うまでもない。一方、健康の保持・増進のための運動については従来から全身持久的運動の有効性が明らかにされており、平成元年には「健康づくりのための運動所要量」が策定された。そして第六次改定「日本人の栄養所要量」では全身持久的運動に加えて軽レジスタンス(抵抗)運動の有効性が示され、これら両タイプの運動を行うことによって、呼吸・循環能力や代謝能力の向上のみならず、現在世界的に問題となっている骨粗鬆症(Osteopenia)や筋肉減弱症(Sarcopenia)の予防が可能となることが明らかになっている。
骨代謝の指標としては骨密度とともに骨代謝マーカーが用いられているが、骨密度自体の変動速度が遅いことから、骨代謝マーカーによって、冶療薬剤選択の指針決定、薬物療法の効果判定、将来の骨密度変化の予測などが行われている。栄養や運動についても種々の検討が行われており、その検討対象は若年者やスポーツ選手から高齢者まで広範囲にわたっているが、75歳以上の後期高齢者や超高齢者を対象として検討した報告は少ない。そして、骨代謝マーカーを指標とし、牛乳乳製品をはじめとする食物摂取状況-栄養素摂取状況と運動の両者の影響を関連づけて検討した報告はほとんどみられない。
我々は先に、高齢者の骨代謝に及ぼす身体活動要因の影響を明らかにすることを目的としてケアハウス入居高齢者(平均年齢80歳)を対象に横断的な検討を行い、“筋力(筋肉量)の維持が後期高齢以降の女性においてもその骨吸収増大を抑制し得る"可能性を示す結果を得た。そこで今回、同ケアハウス入居高齢者の骨密度、骨代謝マーカーレベルについての追跡調査を行い、その変動と牛乳乳製品摂取状況、歩行数および筋力との関連を検討した。本研究は、「牛乳乳製品の摂取と運動が、高齢者における骨代謝の約1年間の変動に対して単独効果/被合効果/相乗効果をもたらす」を作業仮説として、骨密度および骨代謝マーカーを指標とする前向きな手法を用いることにより、高齢者の骨代謝に対する牛乳乳製品と運動の有効性に関するエビデンスを得ることを目的とするものである。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021cbk.html 

2015年9月18日