2001年
著者:樋口満
所属:独立行政法人国立健康・栄養研究所健康増進研究部

  • 健康科学
  • 高齢者
  • 免疫・感染防御・アレルギー・がん
  • 骨・筋肉・体脂肪量調節・運動機能・スポーツ

要約

高齢者は感染症に罹りやすく、感染した場合はそれが原因で死に至ることがしばしばある。それは、加齢に伴い免没機能が低下するためではないかと考えられている。一方、運動は、高齢者の免疫機能保持のために重要であると推察されるが、運動が高齢者の免疫機能に及ぼす影響については、未だ充分に検討されていない。特に、運動が免疫機能に及ぼす影響に関するヒューマン・スタディは、国の内外でもほとんどなされていない。昨年我々は、4-5年にわたって継続して水泳トレーニングを行ってきた高齢女性の安静時NK細胞傷害活性は、運動習慣のない高齢女性に比べて有意に高いことを示した。先行研究によれば、高強度と低強度の運動では免疫機能が低下するが、中程度の運動では免疫機能が亢進する(Nieman DC.1994)ことが明らかにされている。一過性の中程度運動を行った場合であっても、運動直後にNK細胞数が増加し、NK傷害活性も増化するが、細胞あたりで補正すると、NK細胞傷害活性は変化しないかむしろ低下する(Pedersen BK. 1998)。運動を生体への一種のストレスと考えた時、日常的に運動トレーニングを行っている者は、一過性の運動による機能抑制状態を免れ易いのではないかと予測される。そこで、「一過性の中程度運動を行った時、日常的に運動を行っている高齢者は、行っていない対照群に比べて、運動直後の細胞あたりのNK細胞傷害活性の低下が低く抑えられるのではないか」という仮設をたて、次の試験を行った。日常的に中程度の運動を行っている高齢女性(高齢運勤群)(n=9,年齢:62±3歳,最大酸素摂取量(V02max):31±3ml/kg/分)、日常的に運動を行っていない同年齢女性(高齢コントロール群)(n=13,62±4歳,28±3ml/kg/分)、日常的に運動を行っていない若年齢女性(若齢群)(n=10,26±3歳,38±4ml/kg/分)の3群について、一過性運動(トレッドミル歩行で60%V02maxを30分間)の運動前、運動直後、運動2時間後のNK細胞傷害活性の比較を行った。その結果、一過性の運動を行った直後の、NK細胞数とNK細胞傷害活性は、高齢運動群、高齢コントロール群、若齢群3群ともに増加するが、NK細胞あたりのNK細胞傷害活性は、若齢群と高齢コントロール群では、運動直後に低下する。高齢運動群はむしろNK細胞あたりのNK細胞傷害活性が増加し、一過性の運動負荷というストレスに対する免疫反応の低下状態を免れた。これにより、日常的に運動を行っている高鈴者は、行っていない対照群に比べて運動直後の免疫状態の低下を免れやすいことが示唆された。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021dt1.html
キーワード:
免疫機能高齢者運動トレーニング

2015年9月18日