2001年
著者:寺本民生
所属:帝京大学内科学教室研究代表者

  • 健康科学
  • 免疫調節・がん

はじめに

食餌や薬剤からの摂取や、皮膚で生成されたビタミンD(VD)は、肝臓に運ばれ25位水酸化反応を受け25(OH)D3になり、さらに腎臓に運ばれ1α位の水酸化反応を受けることにより活性型の1,25(OH)2D3となる。この1,25(OH)2D3は、骨・小腸・腎臓に作用する。
VDの機能研究はこれまで、Ca代謝調節作用を中心に行われてきたのに対し、1981年にAbe,Sudaら、Miyaura,Sudaらは1,25(OH)2D3がマウスあるいはヒト骨髄性白血病細胞を正常マクロファージに分化誘導することを報告した。これを契機として、1,25(OH)2D3のParathyroid hormone (PTH)分泌抑制作用、抗腫瘍作用、免疫調節作用あるいは皮膚ケラチノサイトの異常増殖の抑制など様々な作用が相次いで発見され、VDは単にCa代謝調節のみならず細胞の分化やホルモン分泌にも深く関与することが明らかになった。持にVDが皮膚癌細胞の骨転移に関わるとされるPTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)の発現にも影響を与えることが明らかにされるにおよび、骨転移頻度の高い癌綴胞に特異的に有効な治療薬として期待されている。
先にも触れたように、活性型ビタミンDである1,25(OH)2D3は、腸管からのCa吸収、破骨細胞による骨吸収さらに腎臓からのCa再吸収を促進することによって全体内のCaホメオスターシスの維持に重要な役割を果たしている。その特異的な細胞内受容体であるビタミンD受容体(Vitamin D Receptor,VDR)は、ステロイドホルモン受容体ファミリーに属し、標的遺伝子の調節領域に存在するVitamin D Responsive Element(VDRE)と総合することによってその遺伝子発現を制御し生物学約作用を発揮するのに重要な役割を演じている。
VDRはCa代謝に関わる古典的な臓器以外にも数多くの悪性腫瘍細胞にも存在し、1,25(OH)2D3はVDRとの特異適結合を介して悪性腫瘍細胞の増殖を抑制し、分化を誘導することが示されている。したがってVDRは癌に対する治療のターゲットのーつと考えられる。
しかし1,25(OH)2D3を薬剤として用いるには、カルシウム代謝の作用により高カルシウム血症を起こす危険性があるため臨床応用には適さない。そこで、1,25(OH)2D3のCa調節作用と悪性腫瘍細胞に対する増殖抑制作用を弁別する目的でVD誘導体の開発が進められた。中でも、22-oxa-1,25-dihydroxy vitaminD3(22-oxacalcitriol,OCT)は側鎖22位のCをOに置換したアナログで、1,25(OH)2D3に比べ、Ca代謝作用ははるかに弱く、逆に細胞増殖抑制、分化誘導能は5-10倍強力であることが知られている。実際OCTはin vitroで1,25(OH)2D3よりも強力に乳癌細胞の増殖を抑制し、さらにin vivoにおいても血清Caに影響することなく癌の発育を強力に抑制することが示されている。一方、OCTの作用とは逆で、カルシウム代謝に対する作用が強く、骨粗鬆症治療薬に、より有効と考えられているアナログの2β-(3-hydroxypropoxy)-1α,25-dihydroxyvitaminD3(ED-71)が開発された。これはA環の2β位に3-ヒドロキシプロポキシ基を導入した化合物である。
通常、VDとこれらアナログは、血中で特異的にvitamin D binding protein(DBP)と結合し、運搬される。しかしOCTのDBP親和性は、1,25(OH)2D3の1/580-1/780と極めて低い。そのためと考えられるが血中からの消失速度が極めて速いことが確認されている。一方、ED-71のDBP親和性は1,25(OH)2D3の約2倍と強いことが知られており、このようなDBPとの総合性がアナログのkineticsの差に影響を与えている可能性が示唆された。
1,25(OH)2D3はDBP以外にもリポ蛋白質、アルブミン、グロブリンなどにも結合している。またOCTにはDBP以外の血中輸送形態が存在し、かつ効率のよい異化過程が推定された。VDは脂溶性ビタミンであることから、リポ蛋白と結合し、輸迭される可能性が考えられた。その可能性について検討した結果、総合リポ蚤自はLDL(底比重リポ蛋白)と同定された。LDLはLDL受容体を介して速やかに取り込まれ、異化されることからOCTもLDL-LDL受容体を介して取り込まれ作用する可能性が考えられた。またOCTは1,25(OH)2D3に比較すると、生物学的作用の持続時間が長いことが知られている。これら細胞内動態の差が取り込まれる経路の違いによる可能性も考えている。更に、LDL受容体はあらゆる細胞表面に存在し、終に癌細胞には多く存在することより癌細胞には効率良く取り込まれる可能後が考えられる。
以上の背景から、本研究ではVDアナログの細胞内取り込みに対するLDL受容体の関与を検討する目的で、LDL受容体を発現しているヒト線維芽細胞もしくはLDL受容体欠損線維芽細胞を用いて各種アナログの取り込みについて検討することとした。また、VDの作用点である核への絞り込みについても検討を加えることとした。さらに、このような取り込みに対してDBPの役割についても検討を加えることとした。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021dt1.html

2015年9月18日