2000年
著者:樋口満
所属:国立健康・栄養研究所健康増進部

  • 健康科学
  • 免疫調節・がん

要旨

近年、我が国でも高齢者の人口増加に伴い、高齢者の健康保持に関して注目が集まっている。高齢者の健康保持には運動と栄養が重要で、あり、運動習慣の獲得によりQOLが向上することが明らかになっている。高齢者の栄養摂取は社会経済的影響が強く、一人暮らしや身体に障害をもつ高齢者は、食事が不規則になったり栄養摂取が偏る傾向が見られ、特にタンパク質摂取が不足することが明らかにされている。牛乳・乳製品は、良質のタンパク質を多く含む食品であり、高齢者のタンパク質不足を解消するために欠かせない食品であると考えられる。また、高齢者は感染症に擦りやすくしかもワクチン投与を受けていても効きにくい。これは、加齢に伴って免疫機能が低下するためと考えられている。高齢者の免疫機能の低下は、タンパク質が不足した場合さらに増大する。従って、高齢者の栄養状態と運動がその免疫機能に及ぼす影響を検討することは、高齢者が健康で活動的に生活するために重要である。
本研究は、日常的に運動を行っている高齢女性、運動を行っていない同年齢の女性、また運動を行っていない若い女性を対象に、その栄養と免疫機能を横断的に比較検討した。社会経済状態がほぼ同じと考えられる高齢女性(62±3歳 vs.65±4歳;運動群vs非運動群)を対象に1年間以上の水泳トレーニング(1回の練習;90分,1500m,75-80%HRmax)を週1.2回行った運動群、行わなかった非運動群に分け、さらに若者群を加えて次の項目を測定した。持久性能力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)、筋力の指標である脚伸展力、栄養状態、T細胞機能としてPHA刺激によるリンパ球の幼若化機能、CD3数、CD4/CD8比、NK細胞傷害活性などである。なお、被験者の栄養状態については、3日間の食事を秤量法により調査し、さらに血中の栄養状態も同時に測定した。その結果、高齢運動群は、非運動群よりV02max 脚伸展力ともに高かった。エネルギー摂取量は運動群の方が非運動群より有意に高いが、摂取エネルギー比率に群間の遣いはなかった。また、血中のビタミンの状態も群間に差はなく、両群とも適正量の摂取が認められた。免疫機能の項目では、2群間でT細胞機能に差はなかったが、高齢運動群のNK細胞傷害活性は、高齢非運動群や表者群に比べて非常に高く、しかもV02maxと有意な相関がみられた。以上のことから、栄養状態がほぼ一致する高齢女性は、運動トレーニングにより持久性運動能力が増加すると、NK細胞傷害活性が向上することが示唆された。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021e2i.html
キーワード:
ナチュラルキラー細胞水泳トレーニング高齢女性

2015年9月18日