2000年
著者:小澤英浩
所属:新潟大学歯学部口腔解剖学第一講座

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

要約

骨石灰化の分子機構を解明することを目的に以下の項目を検討した。
(A) 非石灰化部位における有機質の構造同定
石灰化現象におけるミネラルと有機質の相互関係を解明することを目的として、非石灰化相から石灰化相へと移行する幼弱な骨の有機基質の微細形態を、形態保持の最も優れている急速凍結法を用いて観察するとともに、細胞組総化学を用いてプロテオグリカンなどの有機質の組成を同定した。その結果、プロテオグリカンが石灰化球の結晶と連続する像が観察されたことから、プロテオグリカンが結晶成長の足場になっている可能性が示唆された。また、プロテオグリカンの組成に関しては、幼弱な骨基質に、デコリン、バイグリカン、ベルシカン、コンドロイチン4-硫酸、ケラタン硫酸等が観察され、様々なプロテオグリカンが石灰化におけるカルシウムの保持や集積に関与しているものと推測された。
(B) 石灰化開始部位におけるミネラル集積機構
骨形成部位の石灰化開始機序を解明するため、生後8ヵ月-18ヵ月のラット脛骨骨梁あるいは頭蓋骨内骨膜の微細形態を胎生19.5日と比較して観察した。いずれの時期においても、骨芽細胞と石灰化基質の聞に類骨が介在し、そこにはヒドロキシアパタイト結晶と思われる針状結晶を内包する脂質2重膜に固まれた基質小胞が観察された。以上の結果より、胎仔における初期石灰化部位のみならず成獣ラットにおける骨形成の石灰化においても、基質小胞が関与していることが明らかとなった。
(C) 結晶析出制御機構を担う有機質性結晶鞘の解析
ヒドロキシアパタイト結晶と有機質との相互関係をさらに詳細に解析するために、石灰化球の結晶の内部構造、並びに周囲の有機構造を、微細形態学的、細胞組織化学的に解析した。石灰化球の内部にはヒドロキシアパタイト結晶の集積が観察され、その周囲には有機性の結晶鞘が観察された。この構造は、結晶と密接な関係を保っていることから、石灰化結晶の析出や成長に重要な役割を果たすと考えられ、骨シアロ蛋白やオステオポンチンなどによって構成されていることが明らかとなった。
(D) コラーゲン細線維に対するヒドロキシアパタイト結晶沈着機構の解明
コラーゲン細線維やその他の基質蛋白等に対するヒドロキシアパタイト結晶沈着機構解明の一助とすることを目的として、ヒト永久臼歯の象牙質を集束イオンビーム加工装置で厚さ約100mmに超薄切加工し、加速電圧200KVのエネルギーフィルター透過型電子顕微鏡(EFTEM)で観察した。象牙質基質には、幅約10mm、長さ50-100mmの針状結晶が集積し、その周囲には結晶鞘と思われる電子透過性構造が観察された。これらの針状結晶は2-3本がside-to-sideで集合し、束を作る傾向を示していた。EITEMによるelectro nspectroscopic image法を用いてCおよひCaの局在を観察すると、Cは針状結晶あるいは象牙細管以外の領域に局在が見られ、特に針状結晶の隣接部にはCが多く局在する部位も見られたのに対し、Caは、象牙細管を除く広い領域に局在が見られた。Cは象牙質の有機成分を反映しており、結晶鞘等の構成成分となっていると思われた。Caは結晶の部位以外にも存在し、基質蛋白などと結合して石灰化結晶の形成や維持に関与していると推測された。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021e2i.html 
キーワード:
生物学的石灰化プロテオグリカン微細形態

2015年9月18日