2000年
著者:寺本民生
所属:帝京大学医学部内科

  • 健康科学
  • 免疫調節・がん

はじめに

粥状動脈硬化は動脈内膜におけるマクロファージ(Mφ)の泡沫化すなわちコレステロールエステル(CE)の蓄積を主病巣として形成される。この過程に酸化LDLのスカベンジャー(SR)受容体による取り込みが重要な役割を演じている。実際、LDL低下療法がイベント発症予防に有効であるという多くのエビデンスが示された。しかし、その効果は抑制率約30%であり、残りの約70%はLDLの低下にもかかわらず動脈硬化の発症を予防できなかったといえる。また、高LDL血症がなくてもイベント発症は見られるのであり、別の角度からの予防法の確立が要請される。
ビタミンDについては、そのカルシウム(Ca)代謝調節因子として動脈壁におけるCaの沈着促進作用があるとする報告もあるが、Watsonらは血中の活性型ビタミンD濃度と冠動脈Ca濃度が逆相関するという報告をしている。また、Raisanenらは免疫抑制作用を有するビタミンD誘導体が動脈壁におけるTリンパ球の増殖を抑制し、内膜肥厚を抑制していることを示唆する報告をしている。Rossは動脈硬化性病変として炎症性細胞の浸潤をあげているが、その起因するものとして酸化LDLの存在とMφの泡沫化を提示している。既に、ビタミンDによりMφのSRA1の抑制調節が起こることが報告されているが、他の受容体や細胞内コレステロールエステルのプロセッシングについては検討されていない。報告者らは、活性型ビタミンDである1,25-(0H)2 Vitamin D3がLDL、酸化LDLに結合して運搬されることをすでに発表している (Biochema Biophys Res Comm.215:199-204,1995)。これらのリポ蛋白はそれぞれの受容体の存在する細胞に特異的に取り込まれ、結合したビタミンDがこの経路で取り込まれることも確認した。とくに酸化LDLに結合したビタミンDはMφをターゲットとして取り込まれる。また、ビタミンDの誘導体のうち分化誘導活性の強い誘導体もLDLや酸化LDLで運搬される。本研究では酸化LDLのMφへの取り込み機構と細胞内CEのプロセッシングに焦点をあて、その予防法を構築することを目的とした。そこで、本年度は、このMφにおけるCE蓄積機構であるSRAl、SRBl、CD36、SRECなど種々の酸化LDL受容体に焦点をあて、その制御系について検討を加えたので報告する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021e2i.html

2015年9月18日