2000年
著者:菅野道康
所属:熊本県立大学環境共生学部

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

緒言

反芻動物の体脂、乳脂中に少量成分ながら常在する共役リノール酸(conjugated linoleic acid、以下CLAと略称する)は、きわめて多様な生理活性を備えている。CLAはリノール酸の位置および幾何異性体の総称で、数種の異性体からなっているが、主成分は9c,11t異性体であり、10c,12t異性体がこれに次ぐ、これら脂肪酸のうち、どの異性体がCLAが示す多様な健康効果に寄与しているのかはまだ系統立つては明確にされていない。活性本体の検索は今後の大きな課題の一つであろう。一般には、9c,11t異性体の生物活性が高いと言われているが、少なくとも体脂肪低減効果に限れば、10c,12t異性体の効果が大きいことが知られている。健康効果の面で重要な抗癌作用については、両異性体とも同等の効果があるようである。つまり、牛乳・乳製品を摂取した場合の効用が期待できるわけである。なお、通常の動物実験に用いられているCLAは、リノール酸あるいはリノール酸に富む油脂(サフラワー油など)のアルカリ異性化によって調製されるため、製品中では上記両異性体がほぼ同じ割合で含まれている。このことが、有効型の検索に役立っている側面もある。
わが国では、欧米諸国におけるほど強度の肥満者は多くはないが、過体重や肥満による健康障害は日常的に見られ、大きな社会問題となっている。そのため、肥満改善に多くの方策が講じられているが、基本的にはエネルギー摂取削減や運動負荷が対応の基盤となっているため、持続困難で成果が得にくい一面がある。そのため、食品中の機能性成分の活用による肥満改善に期待が持たれている。現在のところ、ジアシルグリセロールが体脂肪低減効果があるとして特定保健用食品に認可されているが、食品中には同様な効果を示す成分が知られてきている。CLAもそのような成分の一つである。
牛乳や牛肉の脂肪中に特異的に存在するCLAは、リポタンパク質リパーゼの活性抑制、ホルモン感受性リパーゼ活性の上昇、そして筋肉など末梢組織における脂肪酸のβ-酸化充進という一連の代謝系の修飾を介して体脂肪減少作用を発現する。しかし、脂肪酸代謝の中枢的場である肝臓での脂肪酸酸化に対する影響は必ずしも大きくない、したがって、肝臓での脂肪酸代裁を刺激するゴマリグナンであるセサミンとの併用で、CLAは体脂肪を特徴的に減少させることを、これまでの貴研究費の支援による実験で観察している。本年度の研究は、この成果を背景に、肥満改善効果のメカニズムの解明と、脂肪酸代謝をより効率的に元進するための食品成分との組み合わせによって、安全、かつ実践可能な肥満改善の方策を探り、肥満防止によるヒトの健康のために役立つ知見を得ることを目的としている。ヒトでの有効性についての研究は現時点では限られており、Blanksonらは肥満者を対象とした実験で1日当たり3.4gのCLAの摂取で体脂肪の減少を報告しているが、ZambellらおよびBervenらは明確な体脂肪減少効果を観祭していない。つまり、CLAそのものだけの摂取効果は、いろんな条件で比較的影響を受け易いようであり、普遍性が薄い可能性が示唆される。
そのため、CLAの体脂肪沈着軽減作用を明確に発現させ、その効果をより効率的にする方策を確立するため、異なる実験動物種(ラットおよびマウス)を用いて、ゴマリグナンであるセサミンとの併用効果を比較した。さらに、体脂肪代謝と関連するサイトカインとしてレプチンおよびTNF-α(腫湯壊死因子α)の血清濃度を測定し、作用機構の一端を採ることにした。また、最近のin vitroでの研究によると、共役型α-リノレン酸(conjugated linolenic acid、以下CLNAと略する)のヒトガン細胞の増殖に及ぼす効果はCLAとは異なることが観察されているので、このタイプの脂肪酸の摂食効果をも検討した。以下に、これらの実験の結果について報告する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021e2i.html

2015年9月18日