脳機能性食品としての牛乳に特異的に含まれる短鎖脂肪酸 -牛乳に多量に含まれる酪酸の中枢神経系に及ぼす作用-
1999年
著者:山口正弘
所属:順天堂大学
昔から伝わる英国の諺に 「Man is what he eat」と言うのがある。「ヒトは食べる物により、そのヒトの体力は勿論、性質や人格までもコントロールされる、と言う意味である。食べ物が健康の維持・向上のために必要であることは良く理解されているが、精神作用に影響を与えることは一般的ではない様に思われる。
それは、液化管から吸収された食物の消化物は最終的に血液に入り、全身に供給される。しかし、脳だけは更に血液・脳関門(blood-brain barrier)があり、ここを通過しなければ、脳内に入らない。更に脳内血管の内皮細胞どうしが密着結合しているため、物質が通り難くなっている。また、毛細血管の上皮細胞の外側とそれを取り巻く星状神経膠細胞等を合わせて二重の関門が存在する。しかし、それらの細胞膜は内側も外側も共に,リン脂質を主成分とした極性のある脂質で構成されているので脂質に溶けやすいものが透過し易く、電荷を持った極性物質は通りにくいことは一般に認められている。
ところで、現在、牛乳は乳幼児→子供→成入→老人に至るまで多量に摂取きれている食品である。江戸時代や明治待代には薬として、また、長寿の効果を高める珍重な食べ物として用いられていたと言われている。確かに牛乳の中に含まれている色々な成分が抗際化作用や抗がん作用や免疫力を高めることやアポトーシスの遺伝子の発現作用を持つなど優れた機能食品の一つである。
以前、我々は総カロリーを一定にして、カロリーの30%を全脂牛乳で置換した飼料で飼育したラットは強制運動能力は十分持っているにもかかわらず、対照ラットに比べて自発的運動量が有意に低下することを報告した。この現象は飼料の脂肪の質的な違いが要因と考えられた。確かに牛乳の脂肪成分には他の食品には殆ど含まれていない酪酸が脂肪含量の10%も含まれている、この酪酸が脳内に取り込まれ中枢に鎮静作用をもたらした結果と考えられた。この作用は、牛乳(含まれる酪酸)が脳機能食品としての作用を持つ可能性を示唆するもの?ある。
次いで、我々はラットを普通に飼育しておき、それに牛乳に特異的に多量に含まれる酪酸のナトリウム塩を腹腔内に注射したラットは対照ラットに比べて、線状体に遊離されたセロトニンとドーパミン(両者とも脳の興奮性シグナルを発生させる伝達物質のグループ)の増加が同じ時間経過を示した。即ち酪酸が直接又はその代謝産物が中枢神経系の回路網を介して、情動(興奮性シグナルの発生:怒り、恐れ、喜び、悲しみ等の様に、比較的急速に引き起こされる一時的で急激な感情の動き)に影響を及ぼすものと考えられる。
興奮性シグナルは、伝達物質を受け取った神経細胞を興奮させるか、あるいは興奮の度合いを強める。一方、抑制シグナルを発生させる伝達物質(代表的なものはギャバ)を受け取った神経細胞は興奮を弱める。車で例えると、興奮シグナルはアクセルであり、抑制シグナルはブレーキに相当すると考えられる。
興奮シグナルはセロトニンやドーパミンやノルアドレナリン等の伝逮物質により神経細胞の細胞膜の脱分極を起こし膜電位が速やかに変化する。また、抑制シグナルはギャバの様な伝達物質により細胞膜の脱分極を抑え膜電位の変化を鎮めることが解っている。このことから、我々がラットの実験から得た結果がヒトでも生ずるならば、脳波のパターンに変化が生ずる可能性が大いに考えられる。脳波が変わることにより、ヒトの精神活動に影響を与えることが推測される。
本研究では、次のことを明らかにする。
1)前研究に於いて、invivo voltammetryによるセロトニン及びドーパミンの検出は、これらの物質の加水分解によって生ずる電圧をそれぞれ検出するもので物質そのものを捉えていない。セロトニン及びドーパミンのそれぞれの生合成に特異的に作用する阻害剤の付加による、酪酸摂取によるセロトニン及びドーパミンの更なる確認をする。
2)ヒトを対照とした検査で“酪酸ドリンク"(牛乳より調整した酪酸を高濃度に含む欽み物)を摂取したときの脳波の変化を測定し精神作用への影響を推測する。以上の実験から、牛乳に多量に含まれる酪酸が脳機能食品としての作用を明らかにする。
書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021ecz.html
それは、液化管から吸収された食物の消化物は最終的に血液に入り、全身に供給される。しかし、脳だけは更に血液・脳関門(blood-brain barrier)があり、ここを通過しなければ、脳内に入らない。更に脳内血管の内皮細胞どうしが密着結合しているため、物質が通り難くなっている。また、毛細血管の上皮細胞の外側とそれを取り巻く星状神経膠細胞等を合わせて二重の関門が存在する。しかし、それらの細胞膜は内側も外側も共に,リン脂質を主成分とした極性のある脂質で構成されているので脂質に溶けやすいものが透過し易く、電荷を持った極性物質は通りにくいことは一般に認められている。
ところで、現在、牛乳は乳幼児→子供→成入→老人に至るまで多量に摂取きれている食品である。江戸時代や明治待代には薬として、また、長寿の効果を高める珍重な食べ物として用いられていたと言われている。確かに牛乳の中に含まれている色々な成分が抗際化作用や抗がん作用や免疫力を高めることやアポトーシスの遺伝子の発現作用を持つなど優れた機能食品の一つである。
以前、我々は総カロリーを一定にして、カロリーの30%を全脂牛乳で置換した飼料で飼育したラットは強制運動能力は十分持っているにもかかわらず、対照ラットに比べて自発的運動量が有意に低下することを報告した。この現象は飼料の脂肪の質的な違いが要因と考えられた。確かに牛乳の脂肪成分には他の食品には殆ど含まれていない酪酸が脂肪含量の10%も含まれている、この酪酸が脳内に取り込まれ中枢に鎮静作用をもたらした結果と考えられた。この作用は、牛乳(含まれる酪酸)が脳機能食品としての作用を持つ可能性を示唆するもの?ある。
次いで、我々はラットを普通に飼育しておき、それに牛乳に特異的に多量に含まれる酪酸のナトリウム塩を腹腔内に注射したラットは対照ラットに比べて、線状体に遊離されたセロトニンとドーパミン(両者とも脳の興奮性シグナルを発生させる伝達物質のグループ)の増加が同じ時間経過を示した。即ち酪酸が直接又はその代謝産物が中枢神経系の回路網を介して、情動(興奮性シグナルの発生:怒り、恐れ、喜び、悲しみ等の様に、比較的急速に引き起こされる一時的で急激な感情の動き)に影響を及ぼすものと考えられる。
興奮性シグナルは、伝達物質を受け取った神経細胞を興奮させるか、あるいは興奮の度合いを強める。一方、抑制シグナルを発生させる伝達物質(代表的なものはギャバ)を受け取った神経細胞は興奮を弱める。車で例えると、興奮シグナルはアクセルであり、抑制シグナルはブレーキに相当すると考えられる。
興奮シグナルはセロトニンやドーパミンやノルアドレナリン等の伝逮物質により神経細胞の細胞膜の脱分極を起こし膜電位が速やかに変化する。また、抑制シグナルはギャバの様な伝達物質により細胞膜の脱分極を抑え膜電位の変化を鎮めることが解っている。このことから、我々がラットの実験から得た結果がヒトでも生ずるならば、脳波のパターンに変化が生ずる可能性が大いに考えられる。脳波が変わることにより、ヒトの精神活動に影響を与えることが推測される。
本研究では、次のことを明らかにする。
1)前研究に於いて、invivo voltammetryによるセロトニン及びドーパミンの検出は、これらの物質の加水分解によって生ずる電圧をそれぞれ検出するもので物質そのものを捉えていない。セロトニン及びドーパミンのそれぞれの生合成に特異的に作用する阻害剤の付加による、酪酸摂取によるセロトニン及びドーパミンの更なる確認をする。
2)ヒトを対照とした検査で“酪酸ドリンク"(牛乳より調整した酪酸を高濃度に含む欽み物)を摂取したときの脳波の変化を測定し精神作用への影響を推測する。以上の実験から、牛乳に多量に含まれる酪酸が脳機能食品としての作用を明らかにする。
書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021ecz.html