1998年
著者:征矢英昭
所属:筑波大学体育科学系運動生化学

  • 健康科学
  • その他

概要

本研究は、生命維持に不可欠な遊離した血中カルシウムイオン(Ca2+)濃度がストレスなどで変動するという最近の知見を背景として、その調節に対する栄養や運動の生理学的貢献について新しい理解を得ることを目的とした。
実験1として、牛乳を含む乳製品、ならびにサンゴカルシウムなどのカルシウム添加物などと比較し、カルシウム添加物としての牛乳の有用性について検討した。その結果、牛乳はその銘柄によってカルシウムの含量や蛋白、脂肪などの割合が異なることはもちろんだが、Ca2+においても若干の違いがみられた。その差の理由は不明だが、pHがCa2+濃度と有意な負の相関を示したことから、pH値がカルシウムと脂質や結合蛋白との解離常数に影響を及ぼしているものと推察される。さらに、食品添加物であるN社製サンゴカルシウムの摘要と比較した結果、牛乳は基本的な摘要法のおよそ4-5倍のCa2+濃度を有することが明らかとなった。したがって、牛乳は、総カルシウム含量だけでなく、Ca2+濃度の含量においても優れた添加物であることが新たに示唆された。
実験2として、実際に最も高いCa2+濃度を示した銘柄の牛乳を健常な成人被験者(運動群と非運動群)に飲ませ、その際の血中Ca2+濃度ならびに総カルシウム濃度に与える影響について検討した。安静時の血中Ca2+ならびに総カルシウム濃度は、個人間や群間でほとんど違いはみられなかった。しかし、牛乳を飲んだ後の時間経緯でみると、両群ともに有意な増減を示した。直後に有意に低下した後、回復、そして僅かな増加というオシレーションが何回か見られた。理由は不明だが、大量採血に対する不安など、物理的、心理的ストレスなどが影響し、カルシウム低下に働く迷走神経胃分枝や胃由来のホルモン(ガストリンなど)などを介してカルシウム濃度を低下させた可能性は否定できない。
最後に、運動の血中カルシウム代謝に及ぼす影響をみるために、我々独自に開発した走運動ストレスモデルを用いて、血中Ca2+濃度への影響を調べた。
本研究により、牛乳それ自体のCa2+濃度が高く、即効性にカルシウム作用を高める補食として有用性が初めて示唆された。また運動も含め、一定のストレス下ではヒトも動物も同様にCa2+濃度が変動することが明らかとなった。この機構や生理的意義は不明だが、栄養や運動の効果を判定する上で、血中Ca2+濃度の変化を捉えることが有用なパラメーターの一つとなることが明らかとなった。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021epa.html

2015年9月18日