1998年
著者:永田直一
所属:防衛医科大学校病院

  • 健康科学
  • 乳児・周産期・女性の健康
  • 免疫・感染防御・アレルギー・がん

緒言

PTHrP(副甲状腺ホルモン関連ペプチド)はPTH(副甲状腺ホルモン)と受容体を共有し、Ca(カルシウム)代謝に対してPTHとほぼ同一の作用を発揮するペプチドである。PTHrP蛋白および、そのmRNAは、皮膚をはじめ多くの正常組織で検出されている。たとえば乳腺や子宮では妊娠・出産・授乳などの時期によって発現が変化し、胎児組織では発生段階に対応した発現パターンを示す。副甲状腺に限局した発現を示すPTHとは異なる広範な組織分布を示すことや正常動物の血中ではほとんど検出されないことから、PTHrPはautocrine/paracrine因子として種々の生理作用を有すると考えられている。とりわけ胎児の骨格系の発達には重要な機能を発揮していることが明らかにされている。
哺乳動物のミルク中にはPTHrPが高濃度に含まれており、ミルク中のPTHrP濃度が授乳期間後半に増加するのは多くの動物種に共通した所見である。この増加パターンはPTHrPに特徴的で、ミルク中総蛋白濃度やCa濃度の経時的変化とは平行せず、ミルク中の他のホルモンや成長因子とも異なることから、PTHrPに特異的な産生・分泌機序の存在が示唆されている。その生理作用に隠しては、授乳中母体のCa代謝に対する影響やPTHrPがオキシトシンと搭抗的に射乳を調節している可能性も示唆されている。一方ミルク中のPTHrPが児に及ぼす影響については否定的見解が多い。私達も出産直後から授乳期間中のラットやマウスを用いて乳腺におけるPTHrPの生理的役割を研究してきたが、明確な結果を得ることはできなかった。すなわち現時点においては、乳腺またはミルク中のPTHrPの作用についてはいずれも仮説の域を出ない。
上述したように乳腺は正常組織においてPTHrPを産生しているだけでなく、腫瘍組織においても大量のPTHrP産生を認める場合がある。同様のことは扇平上皮細胞その他多くの細胞・組織で認められる。血中PTHrPの上昇を示す乳癌や扇平上皮癌の患者は、PTHrPがPTHと同様にホルモンとして全身的に作用する結果、高Ca血症を呈する。私達は以前PTHrP産生膵臓癌由来細胞株FA-6を樹立した。この癌細胞を移植されたヌードマウスは、患者と同様に高Ca血症を呈し、悪性腫蕩に伴う高Ca血症のよい動物モデルとなる。この動物モデルに骨作用物質を投与することにより、血清Ca値低下作用などのin vivo効果をヒトにおける治療効果に類似した形で評価できる。本研究では、日本の研究グループにより最近発見された強力な破骨細胞形成抑制因子(OCIFと略す)を用いて、この物質が悪性腫蕩に伴う高Ca血症を是正しうるかどうかを検討したので、in vivoの基礎的検討成績も含めて報告する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021epa.html 

2015年9月18日