1995年
著者:久米川正好
所属:明海大学歯学部口腔解剖学第一講座

  • 健康科学
  • 骨・筋肉・体脂肪量調節・運動機能・スポーツ

はじめに

近年、高齢化に伴い骨粗鬆症が深刻な問題となっている。骨粗鬆症は、老年期にみられる典型的な骨の疾患であり、骨の体積あたりの骨量すなわち骨基質と骨塩の両者が減少していくことを特徴としている。骨粗鬆症の予防や骨強化のためには、カルシウム摂取量を増やすことも重要であるが、それだけでは不十分であると考えられる。すなわち、骨は、骨塩とともにコラーゲンなどの骨基質の両者がタイミングよく増加することで、骨量が増加し維持される。そのため、カルシウムのみを摂取しても、骨基質が増えなければ骨粗鬆症の予防および治療に効果が弱いことも考えられる。そこで、骨基質を増加させる骨形成促進物質、および骨基質の減少をくい止める骨吸収抑制物質が求められている。長期間マイルドな条件で摂取し、骨形成を促進し骨吸収を抑制する成分を食品成分中から見つけることができれば、骨粗鬆症の予防および改善に有効であると考えられる。このような作用を有する食品成分の候補として、牛乳由来の乳清タンパク質に注目した。牛乳は、古くから完全栄養食品として飲用されており、豊富なカルシウムを含む。その上、乳児の成長の過程では骨の成長、形成およびリモデリングが活発に行われているので、牛乳中には、カルシウム以外にも、骨代謝に影響を及ぼす成分が含まれていることが推定される。特に、乳清タンパク質は、チーズ製造の副産物であるが、多くの魅力的な成分を含むことが予想された。骨には骨芽細胞、破骨細胞および骨細胞などが存在し、それぞれ相互に重要な役割をしながら、骨が作られ維持されている。骨は、骨芽細胞により骨基質の主成分であるコラーゲンなどが産生され、コラーゲンにヒドロキシアパタイトが沈着して作られる。また、骨吸収は、骨形成とともに骨代謝に重要である。そこで、本研究では、乳清タンパク質のin vitroでの効果を、骨芽細胞および破骨細胞を用いて検討することとした。まず、株化骨芽細胞であるMC3T3-E1細胞およびMG-63細胞を用いて、乳清タンパク質の細胞増殖活性および分化誘導活性について検討した。そして、乳清タンパク質の破骨細胞に及ぼす作用について、うさぎの全骨細胞を用いた破骨細胞による骨吸収評価法と新たに開発した単離破骨細胞の系で評価した。本論文では、これらの乳清タンパク質の骨芽細胞および破骨細胞に及ぼす効果について報告する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022lsv.html 

2015年9月18日