1995年
著者:須田立雄
所属:昭和大学歯学部生化学教室

  • 健康科学
  • 各ライフステージ
近年、本邦でも急激な高齢者人口の増化に伴い、骨粗鬆症を初めとする代謝性疾患を患う患者の増加が大きな社会問題となっている。その結果、骨密度を増やし骨折頻度を低下させる薬剤の開発が急がれている。骨折頻度は骨塩含量と密接な関係がある。代謝性骨疾患は生体のカルシウムのバランスが負に陥ることにより発症することから、本邦では欧米に比べてカルシウムの摂取量が少ないことが原因と考えられているが、その詳細は明らかでない。生体のカルシウムのバランスは小腸からのカルシウムの取り込み、腎臓における再吸収、骨からのカルシウムの溶出と蓄積によって巧妙に調節されている。これらの組織には活性型ビタミンD〔lα,25(OH)2D3〕と副甲状腺ホルモン(PTH)の受容体が存在し、同ホルモンが相互に作用してカルシウムのバランスを正に保っている。
抗クル病図子として発見されたビタミンDは、その後の研究によって肝臓と腎臓で2段階の水酸化を受けて生成するビタミンDの活性型代謝産物、1a,25-ジヒドロキシビタミンD〔lα,25(OH)2D3によってその作用が発現することが明らかになっている。1α,25(OH)2D3はビタミンとして発見されたが、その作用が1α,25(OH)2D3に特異的に結合するタンパク質(受容体、VDR)との総合を介して発現することから、現在ではステロイドホルモンの一種と考えられるようになった。また、近年の分子生物学技術の急速な進展にともなって、ビタミンD研究の分野も急速な進展を遂げ受容体ならびに代謝酵素の構造解析が勢カ的に行われている。従って、活性型ビタミンDの作用は、内分泌器官である腎臓での合成とその標的機関(小腸、腎臓ならびに骨組織)に存在する受容体との総合の2段潜で調節されている。合成されたホルモンは血流を介して標的機関(Endocrine)に運ばれて作用を発現するが、同じ物質が分泌された周囲の細胞(Paracrine)、あるいはそれ自身の細胞(Autocrine)に作用することもある。活性型ビタミンDの場合も腎臓以外の組織で合成されることが知られているが、腎以外で合成される活性型ビタミンD は血中濃度に影響を及ぼさない程度の量であることから、局所で作用していると考えられている。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022ll2.html 

2015年9月18日