1995年
著者:飯野正光
所属:東京大学大学院医学系研究科細胞分子薬理学分野

  • 健康科学
  • 生活習慣病予防

はじめに

動脈の収縮は、末梢抵抗を制御して血圧のコントロールに中心的役割を果たしている。動脈壁は内膜、中膜、外膜の三層からなり、内膜には内皮細胞、中膜には平滑筋細胞、外膜には結合組織とその中を走る交感神経線維が存在する。血管平滑筋細胞は、交感神経支配を受け、神経伝達物質のノルアドレナリンは、α受容体を介して平滑筋細胞内カルシウム濃度を上昇させ、平滑筋の収総を引き起こす。一方、内皮依存性弛緩因子(EDRF)の発見により、内皮細胞は生理活性物質を産生・放出して、血管トーヌス調節時に関与していることが明らかにされた。すなわち、血管内皮細胞は、アセチルコリン、ブラジキニン、ATP、ずり応カなどの刺激により、内皮由来血管弛緩因子を放出する。この内皮由来血管弛緩因子として、一酸化窒素(NO)が同定されている。内皮細胞にはカルシウム/カルモジュリン依存性のNO合成酵素が存在し、内皮純胞内のカルシウム濃度上昇が、NO合成の引き金となる。アセチルコリン等で、内皮細胞を刺激すると、内皮細胞においても、カルシウムオシレーションとカルシウムウエーブが観察される。この際に、NOが産生され、血管平滑筋細胞に拡散して血管の弛緩を引き起こすと考えられている。しかし、細胞間の相互作用については個々の細胞レベルでは解明されていない。
我々は、すでに共焦点レーザー顕微鏡を用いて、組織構築を維持した血管壁における個々の細胞応答を可視化するという新しいカルシウムイメージング法を確立している。共焦点顕微鏡は、焦点深度を浅くした蛍光顕微鏡であり、組織標本を用いても、厚さ数μmの断層像(たとえば平滑筋層だけ)を観察することができる。さらに、焦点面を上下に動かすことにより、内皮細胞胞と平滑筋細胞層を個別に観察できると考えられる。そこで、内皮細胞と平滑筋細胞の相互作用を組織内で解析するため、対物レンズのピエゾドライブを装備した共焦点顕微鏡を用い、焦点面を数μm上下させることにより、平滑筋層と内皮層に交互にすばやく焦点を合わせ、それぞれのカルシウム動態を個別にかつ個々の細胞において測定することを試みた。その結果、内皮細胞による血管収縮制御に、平滑筋細胞のカルシウムオシレーション頻度が関与することが明らかになった。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022lsv.html

2015年9月18日