21世紀を見据えての基礎代謝量の再検討について −携帯型代謝測定装置の開発および活用−
1995年
著者:井川正治
所属:日本体育大学
緒言
わが国の人口の年齢構成は次第に高齢化し、65歳以上人口の総人口に占める割合は、平成7年度では14.6%であったが、平成12年(2000年)の17.2%を経て、平成62年(2050年)には、32.3%に達すると予想されている。このような状況下において、中高年者の健康について考えることは、綴人のみならず社会にとっても重要であると言える。中高年者の健康の維持あるいは増進のためには、習慣的な運動実践や適切な栄養摂取が必要である。
最近では、高齢者の栄養問題としてタンパク質・エネルギー低栄養状室長(Protein Energy Malnutrition;PEM) が医学や栄養学の世界で取り上げられ、その検討が盛んに行われている。タンパク質・エネルギー低栄養状態に陥ると、血清アルブミン値が低下し、身長、体重、上腕周囲長、上綴三頭筋部皮脂厚、肩胛骨下皮脂厚などの形態の衰退を招く。また、Cortiらの追跡調査によって、血液アルブミン値が低く、ADL(Activity of Daily Living)の低下している高齢者の死亡率が高く、生存年数も低いことが報告されている。
現在、病院等の栄養管理の場においては、性別、年齢、身長、体重から求める計算式(Harris-Benedictの式)によって推定した基礎代謝基準値を用いてエネルギー所要量を算出している。しかし、一般人を対象とした計算式を高齢者に適応させるには、無理が生じるのではないだろうか。さらに、日本人の栄養所要量第五次改定に記載されている基準値も、70歳以上の高齢者の測定例が十分でないため、外挿法で求めたものを用いている。
また、基礎代謝量は様々な要因によって変化する。その要因としてあげられるのは、年齢、食物、気候、身体組成などである。特に基礎代謝量と身体組成の関係については多くの先行研究がなされており、さらに除脂肪体重(LBM)との聞には正の相関関係が認められるという報告が数多くある。これは、骨格筋は代謝活性の高い組織であり、量の増減に伴い基礎代議量も強く左右されるためだと言われている。そのために運動選手などの鍛練者は、一般人と比較すると基礎代謝量が5-10%高くなるという報告もある。
運動の有無が基礎代謝量に影響するのであれば、運動習慣のある者に対してこれまでの推定方法を用いて栄養指導を行うことは、不適切ではないかという疑問が生じる。生活活動強度別での算出方法もあるが、ベースとなる基礎代謝量の見積もりがずれていれば、必然的に算出されたエネルギー所要量にもずれが生じると考えられる。これらのことから、基礎代謝量は従来の推定法を用いるのではなく、呼気ガスを測定し、個人個人のエネルギー所要量を検討する必要性があるといえる。
しかし、基礎代謝量の測定を実際の栄養指導の現場で行うには、いくつかの間題がある。第一に、厳格な測定条件が定められており、それらの条件を満たすには入院をしなければ非常に困難である。例えば、①食後12符間以上経過していること②前日の食事は肉食・飽食を避け、普通食程度とする③睡眠は8時間以上とること④早期覚醒時に測定を行う⑤女子の月経時は測定しない⑤20-25℃の快適な条件下測定を行うなどである。第二に、測定機器の問題がある。従来の呼気ガスの分析器は、高価であり、操作も困難である。また、大型なために持ち運びに不便であり、病院などの施設ならともかく、在宅看護の家庭や様々な施設などの現場への持ち込みが不可能である。
まず、第一の基礎代謝量の測定条件の問題を解決するためには、安静時代謝量の導入が必要であると考えられる。基礎代謝量と安静時代謝量は、混同されやすいが、定議は、両者ともに生命を維持するために必要な最低現のエネルギー量とされている。安静時代謝は、1920年代の初頭に提案された概念であり、先ほど述べたいくつかの厳しい測定条件がある。これに対して安静時代謝量は、肉体、精神の緊張を避け、食物の彩響のない状認で、軽く目を閉じ、椅座位安静にしている状態のエネルギー代謝量をいう。また、安静時代謝量はその安静の状態と特異動的作用の影響から基礎代謝量の20%増しといわれている。
日本においては、エネルギー所重量は基礎代謝を基準にし、エネルギー代謝率(Relative Metabolic Rate:RMR)を用いて算出している。しかし、近年、欧米先進国では、安静時代謝を基礎釣エネルギーとして考え、安静時代謝量と生活活動に伴うエネルギー消費量の増大分との和としてエネルギー所要量を求めており、基礎代謝の位置付けは必ずしも重視されていない。そこで、本研究では安静時代謝量に注目して、研究を進めることにした。
次に、第二の測定機器の簡便性に関する問題は、近年開発された細谷式携帯型熱量計(METAVINE,VINE社製)によって解決が期待されている。METAVINE本体は、270×75×220mmと小型であり、重量は1.8kgと軽量である。標準ガスを用いた校正は不要であるために操作性は容易であり、価格も従来の機器と比較すると極めて安価に設定されている。そこで、実験1として携帯型熱量計METAVINEの信頼性の検討を行った。
また、安静時代謝量の定義は未だに確立されておらず、安静とはいかなる状態を言うのかは厳密に生められていない。例えば、呼気ガスの測定を行う前段階での安静時間、測定時の姿勢などは検者によって異なる。安静時間は、検者によって5-45分と差があり、測定時の姿勢は仰臥位または椅座位の場合があり一律とされていない。そこで、実験2として栄養指導の現場において、いかなる方法を用いて行うことが効率良く、なおかつ有効であるかを検討することとした。また、安静時代謝量を現場で簡便にこの装置を用いて測定できるかについてフィールドワークとして検討をするために、中高年者を対象に安静時代謝量を測定し、運動習慣や身体組成との関係の検討および従来の推定値との比較を行った。
書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022lsv.html
最近では、高齢者の栄養問題としてタンパク質・エネルギー低栄養状室長(Protein Energy Malnutrition;PEM) が医学や栄養学の世界で取り上げられ、その検討が盛んに行われている。タンパク質・エネルギー低栄養状態に陥ると、血清アルブミン値が低下し、身長、体重、上腕周囲長、上綴三頭筋部皮脂厚、肩胛骨下皮脂厚などの形態の衰退を招く。また、Cortiらの追跡調査によって、血液アルブミン値が低く、ADL(Activity of Daily Living)の低下している高齢者の死亡率が高く、生存年数も低いことが報告されている。
現在、病院等の栄養管理の場においては、性別、年齢、身長、体重から求める計算式(Harris-Benedictの式)によって推定した基礎代謝基準値を用いてエネルギー所要量を算出している。しかし、一般人を対象とした計算式を高齢者に適応させるには、無理が生じるのではないだろうか。さらに、日本人の栄養所要量第五次改定に記載されている基準値も、70歳以上の高齢者の測定例が十分でないため、外挿法で求めたものを用いている。
また、基礎代謝量は様々な要因によって変化する。その要因としてあげられるのは、年齢、食物、気候、身体組成などである。特に基礎代謝量と身体組成の関係については多くの先行研究がなされており、さらに除脂肪体重(LBM)との聞には正の相関関係が認められるという報告が数多くある。これは、骨格筋は代謝活性の高い組織であり、量の増減に伴い基礎代議量も強く左右されるためだと言われている。そのために運動選手などの鍛練者は、一般人と比較すると基礎代謝量が5-10%高くなるという報告もある。
運動の有無が基礎代謝量に影響するのであれば、運動習慣のある者に対してこれまでの推定方法を用いて栄養指導を行うことは、不適切ではないかという疑問が生じる。生活活動強度別での算出方法もあるが、ベースとなる基礎代謝量の見積もりがずれていれば、必然的に算出されたエネルギー所要量にもずれが生じると考えられる。これらのことから、基礎代謝量は従来の推定法を用いるのではなく、呼気ガスを測定し、個人個人のエネルギー所要量を検討する必要性があるといえる。
しかし、基礎代謝量の測定を実際の栄養指導の現場で行うには、いくつかの間題がある。第一に、厳格な測定条件が定められており、それらの条件を満たすには入院をしなければ非常に困難である。例えば、①食後12符間以上経過していること②前日の食事は肉食・飽食を避け、普通食程度とする③睡眠は8時間以上とること④早期覚醒時に測定を行う⑤女子の月経時は測定しない⑤20-25℃の快適な条件下測定を行うなどである。第二に、測定機器の問題がある。従来の呼気ガスの分析器は、高価であり、操作も困難である。また、大型なために持ち運びに不便であり、病院などの施設ならともかく、在宅看護の家庭や様々な施設などの現場への持ち込みが不可能である。
まず、第一の基礎代謝量の測定条件の問題を解決するためには、安静時代謝量の導入が必要であると考えられる。基礎代謝量と安静時代謝量は、混同されやすいが、定議は、両者ともに生命を維持するために必要な最低現のエネルギー量とされている。安静時代謝は、1920年代の初頭に提案された概念であり、先ほど述べたいくつかの厳しい測定条件がある。これに対して安静時代謝量は、肉体、精神の緊張を避け、食物の彩響のない状認で、軽く目を閉じ、椅座位安静にしている状態のエネルギー代謝量をいう。また、安静時代謝量はその安静の状態と特異動的作用の影響から基礎代謝量の20%増しといわれている。
日本においては、エネルギー所重量は基礎代謝を基準にし、エネルギー代謝率(Relative Metabolic Rate:RMR)を用いて算出している。しかし、近年、欧米先進国では、安静時代謝を基礎釣エネルギーとして考え、安静時代謝量と生活活動に伴うエネルギー消費量の増大分との和としてエネルギー所要量を求めており、基礎代謝の位置付けは必ずしも重視されていない。そこで、本研究では安静時代謝量に注目して、研究を進めることにした。
次に、第二の測定機器の簡便性に関する問題は、近年開発された細谷式携帯型熱量計(METAVINE,VINE社製)によって解決が期待されている。METAVINE本体は、270×75×220mmと小型であり、重量は1.8kgと軽量である。標準ガスを用いた校正は不要であるために操作性は容易であり、価格も従来の機器と比較すると極めて安価に設定されている。そこで、実験1として携帯型熱量計METAVINEの信頼性の検討を行った。
また、安静時代謝量の定義は未だに確立されておらず、安静とはいかなる状態を言うのかは厳密に生められていない。例えば、呼気ガスの測定を行う前段階での安静時間、測定時の姿勢などは検者によって異なる。安静時間は、検者によって5-45分と差があり、測定時の姿勢は仰臥位または椅座位の場合があり一律とされていない。そこで、実験2として栄養指導の現場において、いかなる方法を用いて行うことが効率良く、なおかつ有効であるかを検討することとした。また、安静時代謝量を現場で簡便にこの装置を用いて測定できるかについてフィールドワークとして検討をするために、中高年者を対象に安静時代謝量を測定し、運動習慣や身体組成との関係の検討および従来の推定値との比較を行った。
書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022lsv.html