1995年
著者:今泉勝巳
所属:九州大学農学部

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

要約

乳酸発酵乳や乳清タンパク質の生体内抗酸化作用、抗酸化作用を惹起する成分、発酵乳とその原材料である脱脂粉乳との生体内抗酸化作用の比較、乳清タンパク質の抗動脈硬化作用などについて、平成7-9年度にかけて検討した。
平成7度は、まず、通常食を与えたラットを用いて、牛乳乳清と発酵乳乳清の生体内過酸化に対する抗酸化作用と血清脂質濃度に及ぼす影響を検討し、抗酸化作用と血清コレステロール低下作用を有する成分が発酵乳乳清分画に存在することを明らかにした。つづいて、酸化ストレスを誘発する低タンパク質食や低ビタミンE食を摂取させたラットを用いて、牛乳乳清タンパク質ならびに発酵乳乳清が抗酸化作用を有することを確認した。
平成8年度は低ビタミンE食ラットを用いて、発酵乳乳清や乳清タンパク質画分中の抗酸化作用を惹起する成分ならびにその作用メカニズムについて検討し、次のような知見を得た。(1)まず、食事ビタミンEレベルの影響について検討し、低ビタミンE食は肝臓と血清のα-トコフェロール蓄積量を減少させ、肝臓と血清の過酸化物濃度、赤血球の溶血阻害活性、還元型グルタチオン濃度、抗酸化に関連する酵素の活性、in vitroでのd<1.063g/mlリポタンパク質の過酸化反応に対して酸化促進的に作用することを確認した。(2)乳清タンパク質および発酵乳乳清はこれら過酸化パラメーターの上昇を抑制した。(3)このような過酸化パラメー夕ー上昇抑制作用の一部は乳清タンパク質類似アミノ酸混合物および発酵産物である乳酸によって再現されることを明らかにした。(4)生体内過酸化抑制作用は牛乳乳清の主要タンパク質であるβ-ラクトグロブリンで強いことを示すとともに、このタンパク質中のシスチンは、ジあるいはトリペプチドとして吸収され効率的に還元型グルタチオン合成に利用されるという可能性を指摘した。
平成9年度は、脱脂紛乳乳酸発酵産物の脱脂粉乳に対する、生体内抗酸化作用における、優位性について検討した。また、生体内過酸化反応の亢進は動脈硬化の進展と関わっていることから、動脈硬化モデル動物であるアポE欠損マウスを用いて乳清タンパク質の抗動派硬化作用について検討した。その結果、(1) 脱脂紛乳発酵産物は体内のビタミンEの消耗抑制作用を介して生体内抗酸化作用を発揮すること及び、その作用は主として乳酸菌発酵で生じる有機酸に基づくことを確認した。しかし、(2)乳清タンパク質の抗動脈硬化作用を実証するまでには到らなかった。
これら一連の3年間の実験から、牛乳乳清タンパク質は生体内抗酸化作用があること、乳酸菌による発酵によって牛乳の生体内抗酸化作用が増強されることが明らかになった。本実験条件下では、乳清タンパク質に抗動脈硬化作用を認めることは出来なかったが、乳酸乳製品の抗動脈硬化作用についてはさらに検討する必要がある。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022ll2.html

2015年9月18日