食事摂取が血清中の脂肪構成に及ぼす影響に関する疫学的研究(3) -とくに牛乳・乳製品の影響を中心として-
1993年
著者:小町喜男
所属:大阪府立公衆衛生研究所
はじめに
牛乳・乳製品が栄養学的に見て優れた食品であることは言うまでもないが、牛乳・乳製品を多く摂取する欧米諸国において虚血性心疾患が多発することから、高脂血症や血液の凝固性の亢進を介して、粥状硬化症の進展や血栓形成につながるのではないかとして警戒する意見も、わが国では少なくなかった。
我々は約10年間に及ぶ本研究において、食生活の異なる都市・農村・漁家、それに加えて米国ミネソタ州の白人及び日系人の集団を対象として、日米間、或いは日本国内各地の比較研究により、先ず、牛乳・乳製品の摂取と血清総コレステロール値の関連を、次いで、血圧値、さらに血液凝固線溶系との関係を引続いて検討してきた。
そして、都市・農村・漁家の何れの集団においても、わが国の一般の人々の牛乳・乳製品の摂取量は近年増加傾向にあるとはいえ、現在の程度の摂取量では血清脂質の上昇を介して粥状硬化症の進展を促進しているとは考えにくいこと、むしろ、従来わが国に不足していた動物性食品の摂取増加によって脳出血の予防に働き、一方、カルシウムの摂取量の増加が血圧値の近年の低下に寄与してきた可能性が大きいことを示した。
また、本テーマでの最初の2年間は上述の諸集団の40-69歳男女の血清脂肪酸や血漿フィブリノーゲン値を測定し、食生活、とくに牛乳摂取との関連を検討した。其の結果、血液の凝固に関連するとされる血清中のω3/ω6比は、漁家・沿岸農村で高く、都市や内陸農村では低いこと、牛乳の摂取量の多寡は、わが国の一般人の摂取量の程度では、ω3/ω6比を低下させるおそれの少ないことを見出した。さらに、血漿フィブリノーゲン値についても、牛乳摂取量が大きな関連を有するとは考えられない成績であることを報告した。
本テーマでの研究の3年目である本年は、当初、脳卒中、虚血性心疾患のリスクファクターとしての総コレステロール、HDLコレステロール、血清中脂肪酸構成、とくにω3/ω6比の役割をコホート内症例対照研究の手法を用いて明らかにし、牛乳・乳製品の影響を総合的に解明することを計画していた。しかし、本年度においては対象各集団よりの脳卒中・心筋梗塞の発生が例年よりも少なかったため、過去の発生例を加えても、統計学的に十分な検討を行うことは困難であった。そこで、この検討はさらに3年間の発生数を加えてから改めて行うこととし、本年は血漿フィブリノーゲンに加えて、同時に線溶系因子である組織プラスミノーゲン抗原(t-PA)、組織プラスミノーゲン活性(t-P Aactivity)、組織プラスミノーゲン活性抑制因子(PAI-1)を測定し、牛乳摂取量との関連を検討した結果を報告する。
書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021tvd.html
我々は約10年間に及ぶ本研究において、食生活の異なる都市・農村・漁家、それに加えて米国ミネソタ州の白人及び日系人の集団を対象として、日米間、或いは日本国内各地の比較研究により、先ず、牛乳・乳製品の摂取と血清総コレステロール値の関連を、次いで、血圧値、さらに血液凝固線溶系との関係を引続いて検討してきた。
そして、都市・農村・漁家の何れの集団においても、わが国の一般の人々の牛乳・乳製品の摂取量は近年増加傾向にあるとはいえ、現在の程度の摂取量では血清脂質の上昇を介して粥状硬化症の進展を促進しているとは考えにくいこと、むしろ、従来わが国に不足していた動物性食品の摂取増加によって脳出血の予防に働き、一方、カルシウムの摂取量の増加が血圧値の近年の低下に寄与してきた可能性が大きいことを示した。
また、本テーマでの最初の2年間は上述の諸集団の40-69歳男女の血清脂肪酸や血漿フィブリノーゲン値を測定し、食生活、とくに牛乳摂取との関連を検討した。其の結果、血液の凝固に関連するとされる血清中のω3/ω6比は、漁家・沿岸農村で高く、都市や内陸農村では低いこと、牛乳の摂取量の多寡は、わが国の一般人の摂取量の程度では、ω3/ω6比を低下させるおそれの少ないことを見出した。さらに、血漿フィブリノーゲン値についても、牛乳摂取量が大きな関連を有するとは考えられない成績であることを報告した。
本テーマでの研究の3年目である本年は、当初、脳卒中、虚血性心疾患のリスクファクターとしての総コレステロール、HDLコレステロール、血清中脂肪酸構成、とくにω3/ω6比の役割をコホート内症例対照研究の手法を用いて明らかにし、牛乳・乳製品の影響を総合的に解明することを計画していた。しかし、本年度においては対象各集団よりの脳卒中・心筋梗塞の発生が例年よりも少なかったため、過去の発生例を加えても、統計学的に十分な検討を行うことは困難であった。そこで、この検討はさらに3年間の発生数を加えてから改めて行うこととし、本年は血漿フィブリノーゲンに加えて、同時に線溶系因子である組織プラスミノーゲン抗原(t-PA)、組織プラスミノーゲン活性(t-P Aactivity)、組織プラスミノーゲン活性抑制因子(PAI-1)を測定し、牛乳摂取量との関連を検討した結果を報告する。
書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021tvd.html