鉄欠乏及び貧血の程度が筋の代謝・収縮特性及び全身運動能力に及ぼす影響 −強度の鉄欠乏が筋及び脳の代謝に及ぼす影響−
1992年
著者:大平充宣
所属:鹿屋体育大学
栄養又は摂取カロリー不足などによる鉄欠乏性貧血は、我が国ではほとんど見られなくなったが、特に開発途上国においては依然として深刻な健康問題の一つである。ところが、先進諸国でも特に女性や運動選手における鉄欠乏又は貧血は重大な関心事である。鉄欠乏性貧血が運動能カ(特に持久カ)を抑制することは数多く報告されている。鉄欠乏は血中ヘモグロビン(Hb)のみならず、組織における鉄含有タンパク質の合成も抑制するので、血液による酸素運搬のみならず、組織における酸素利用能も制限されてしまうのが、その主たる原因である。鉄欠乏性貧血者に鉄を投与すると血中Hb濃度が次第に増加していくが、それに伴い運動能力も向上する。この場合、Hbのみならず組織における鉄含有タンパク質も改善される。しかしながら、鉄欠乏性貧血者のHb濃度を輸血により一気に上昇させた場合、筋中などの鉄欠乏はすぐには改善されない。ところが運動能力はHb濃度の増加度と平行して上昇する。このような結果は、運動能力を抑制する因子は組織における鉄欠乏よりも、主に貧血(血中Hb濃度の低下)であることを示唆するものである。しかしながら、貧血の程度は同じであっても鉄欠乏の程度が異なる人で運動能力を比較すると、鉄欠乏がより強度である方が運動の持続時間が短かったり、一定負荷運動中の心拍数が高いという結果も得られている。しかも貧血ではなくても鉄欠乏が進行した女性が慢性疲労を訴えることも知られている。更には、鉄欠乏は行動や学習能力にも影響を及ぼすという報告もある。従って、鉄欠乏は筋のみならず、脳の機能や代謝に影響を及ぼすことが示唆される。そこで、本研究では、ラットの筋及び脳の代謝が強度の鉄欠乏及び貧血に如何に影響されるのか検討してみた。しかし、まだ全ての分析は終わっていないので、本稿では主に貧血の程度、血液ガス、及び高エネルギーリン酸含有について述べたい。
書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021uzy.html
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