1990年
著者:松島照彦
所属:筑波大学臨床医学系

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

序論

アポ蛋白Eはリポ蛋白の構成アポ蛋白成分として共通にみられる脂質結合能の他、リポ蛋白リパーゼ、肝性トリグリセリドリパーゼの活性化作用、さらにLDL受容体、及びレムナント受容体への結合能を有し、リポ蛋白代謝上重要な役割lを果たしている。特に、アポ蛋白Eはカイロミクロンの残遺体であるカイロミクロンレムナント上に多く存在し、そのレムナント受容体を介しての肝への取り込みを引き起こし、食事性リポ蛋白の代謝を決定している。
アポ蛋白Eはその成熟蛋白が299アミノ酸残基からなる糖蛋白であるが、アミノ酸配列の変化によりいくつかの多型が存在している。すなわち、野生型と考えられるアポ蛋白E3に対し、その第12番目のアミノ酸残基であるCysがArgに変わった多型がアポ蛋白E4であり、158番目のArgがCysに変わったものがアポ蛋白E2である。いずれも荷電アミノ酸の変異であるので、蛋白の等電点の変化をきたし、アポ蛋白E4は塩基性の、アポ蛋白E2はより酸性の性格を有している。この多型は遺伝的に決定され、遺伝子上の塩基の変異によるものであることが知られており、本邦ではアポ蛋白E2、E4の対立遺伝子ε2、ε4はそれぞれ遺伝子頻度として約10%、5%程度で存在していると考えられている。現在、アポ蛋白Eには他にも異なる等電点、アミノ酸配列を有する稀な変異が発見され、約10種類のイソ蛋白が報告されている。
これらアポ蛋白Eの多型の内、アポ蛋白E2を有するものの一部には3型高脂血症を呈するものがあることが知られている。
これはその変異の存在する第140から160残基がLDL受容体への結合部位であり、その付近に近い陽性荷電アミノ酸が結合に重要であるので、アポ蛋白E2は結合能を失い異常リポ蛋白が蓄積するのであろうと考えられている。しかし、3型高脂血症を発症しない限りアポ蛋白E2を有するものはLDLの産生がむしろ悪いために血清コレステロール値はむしろ低いことが知られている。一方、アポ蛋白E4を有するものは受容体への結合能はアポ蛋白E3と差がないが、未だ不明の原因よりリポ蛋白の代謝回転が速く、血清コレステロール値はより高値をとることが認められている。
一方、牛乳は高脂肪食品であるが、飲用後および長期飲用を行っても血清脂質、血清コレステロール値の上昇は少ないことが知られ、それには牛乳の非脂肪成分(乳清)の働きが関与している可能性が示唆されている。我々はこの度、この牛乳摂取後の血清脂質の変化がアポ蛋白Eの多型により違いがあるかどうかを知る目的で、食事性リポ蛋白であるカイロミクロンとカイロミクロンの代謝残遺体であるカイロミクロンレムナントの代謝を観察した。レチノールはビタミンAの前駆体であるがそのエステルは経口投与すると非極性脂質としてカイロミクロンの中核部を構成して運搬されるが、トリグリセリドと異なりリポ蛋白リバーゼによる水解を受けないため、カイロミクロンの異化が進行しカイロミクロンレムナントとなって肝臓に取り込まれるまでその粒子上に留まっている。本研究でレチノールパルミテートを牛乳飲用と共に経口負荷してカイロミクロンを体内標識し、レムナントの異化の観察を試みた。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021u7u.html

2015年9月18日