1987年
著者:矢島途好
所属:東京医科歯科大学医学部第三内科

  • 健康科学
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はじめに

わが国では、国民全体の栄養摂取最の増加にともない、肥満の頻度は急速に増加している。同時に肥満が直接あるいは間接的に関与している糖尿病、高血圧、高脂血症とともに、心疾患の発生率も増加している。Framingham Studyの成績では、50歳未満の肥満男性で2倍の頻度で冠動脈硬化があり、この頻度は女性でも2.4倍に増加していた。さらに心不全は2.5倍(男性)または3倍(女性)、脳梗塞は2倍(男性)または4倍(女性)に増加しており、肥満は加令、コレステロール、血圧とともに独立した危険因子となっている。
これらの変化にともない、肥満の問題は現代社会の大きな問題となり、肥満の治療法についても急速に進歩している。
肥満の治療は、摂取エネルギーを消費エネルギー以下に抑えることにあり、それには摂取エネルギーを減じるか、消費エネルギーを大にすればよいわけで、その方法として食事療法、運動療法、薬物療法、外科療法が知られている。
運動療法は、LBM(lean body mass 除脂肪体重)の消失防止及び余分な体脂肪の減少や、心肺機能の改善及び筋力の保持などによる健康の維持、増進等の利点があるが、フルマラソン(42.195km)を走破するのに必要とされる体脂肪の量は、わずか約330gといわれており、運動療法のみの減量は容易ではなく、肥満の治療には食事療法との併用が望ましいとされている。
薬物療法を目的として開発中の薬物としては消費促進薬(triiodothyronine T3)、食欲抑制薬(マジンドール)、消化吸収阻害薬(アカルボース、AO-128)、脂質代謝阻害薬(dehydroepiandrosteron)が知られているが、現在まで日本では厚生省の認可をうけた治療薬はない。しかし、近い将来、肥満の治療薬として適用されることが期待されている。
外科療法は、重症肥満患者に対する最も強力な補助手段として位置づけられている。消化吸収面積を少なくする腸バイパス手段、一度に多量の食事をとれないようにする、胃縮少手段などがあるが、高率に肝硬変や代謝障害などの深刻な副作用の発生が明らかになり、今後に多くの問題が残されている。
食事療法は、肥満治療の基本で、その方法は低エネルギー食、超低エネルギー食(very low calorie diets VLCD)、断食にわけられる。特にVLCDによる治療例は、日本肥満学会等に多数報告されるようになったが、それらによると食事療法による減量には、肥満者自身の努力と忍耐が必要であり、また減少した体重を維持するために、さらに一層の困難がともなう。その他に、急激な減食療法では窒素不平衡はまぬがれず、LBMが失われ、筋肉の萎縮、ヘマトクリットの低下、起立性低血圧、毛髪発育の停止、貧血等の症状が現れる。また、同じ低エネルギー食でも食事同容によっては、体重減少は体水分喪失によるもので、脂肪の喪失に伴う真の減少とはいえない現象が生じることもある。これらの難点を克服するために食事内容、方法等について改善がすすめられている。
本論文は、食事療法における牛乳の意義を明らかにするため、肥満モデル動物(Zucker fatyラット)に脱脂粉乳を1カ月間与え、体重ならびに代謝に対する牛乳の効果について検討したものである。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021qu5.html

2015年9月18日