2021年
著者:後藤 孔郎
所属:大分大学 医学部 内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座

  • 健康科学
  • その他

【緒言】

COVID-19が猛威を振っており、社会的・経済的に大きな打撃を与えている。SARS-CoV-2の感染には、ACE2が不可欠な受容体であることが明らかになっている。事実、肺組織には多くのACE2が発現しており、このことが肺炎の重症化に大きく関与している。また、COVID-19は下痢といった消化器症状をもたらすことが知られているが、これには小腸に存在するACE2が関与していることが推測されている。小腸の上皮細胞ではACE2はアミノ酸トランスポーターと共局在しており、さらにACE2による消化管のよるアミノ酸吸収制御は、抗菌ペプチドの産生などを介した腸内細菌叢の恒常性維持に重要であり、マウスモデルの炎症性腸炎に対してACE2が防御的作用をもつことが解明されている。
一方、肥満は腸内細菌叢を悪化させ、いわゆる“悪玉菌”から炎症惹起物質であるエンドトキシンが合成される。また、肥満に伴う小腸内での炎症性変化によって腸管バリアが破綻し、上記のエンドトキシンが腸管腔から門脈へと放出され、体循環を介して全身に炎症性病変もたらすと考えられている。さらにエンドトキシンが肺に到達すると、急性肺障害の原因となることが知られている。COVID-19により重症化する要因として、糖尿病や肥満が考えられている。重症化と血中ACE2濃度との関連を検討したところ、高度肥満や血糖コントロールの悪化がみられるほど血中ACE2濃度が増加しており、多臓器からのACE2発現の増加によるものではないかと報告されている。しかしながら、肥満や糖尿病といった病態において、肺や小腸にACE2発現が増加しているかについては不明である。本研究の目的は、①肥満モデル動物で小腸や肺などの臓器内でACE2発現が増加するか、②腸内環境改善作用をもつホエイペプチドの摂取によって多臓器内でのACE2発現増加やSARS-CoV-2の臓器内感染が改善するか、③ホエイペプチドの摂取によって血中エンドトキシンが低下するか、を検討する。

2024年1月17日