2018年
著者:岡田和子1)2) 長谷川茉莉1)
所属:1)東京女子医科大学 東医療センター小児科 2)岡田小児科クリニック

  • 健康科学
  • その他

【要旨】

 乳糖不耐症(Lactose intolerance:LI)は、日本人に多いといわれているが、腹部の自覚症状だけで調査しても乳糖摂取以外の原因が混在している可能性がある。今回、アンケート調査において牛乳・乳製品で腹部自覚症状のある46例(10~68歳、中央値34歳)を対象に、一般牛乳と乳糖減量乳飲料での200ml単盲検比較試験をおこない、評価したところ、牛乳で明らかな症状を認めたのは22例(47.8%)であった。
 また、乳糖吸収不全(Lactosemalabsorption:LM)の診断のために、呼気水素ガス濃度測定による20g乳糖負荷試験(20gLHBT)の実施では、35例(76%)がLMと診断された。単盲検比較試験におけるLMの診断の信頼度を検討した結果、症状が明確な場合はLMの診断の一致率は86.4%で、単盲検比較試験は、簡便で有用な検査法といえるが、症状が不明瞭な場合はLHBTも必要であった。
 次に、LMと診断され、同意が得られた32例について、牛乳漸増負荷治療をおこなった。牛乳を継続摂取することで耐性が獲得され、腹部症状が改善されるという報告は海外では散見されるが、日本人で調査した報告はない。そこで、日本人に適した治療方法として症状出現について配慮し、空腹時に毎日、一般牛乳を30mlから開始し、4-7日ごとに、腹部症状が落ち着いた状態で30mlずつ増量し、200mlまで達し4日以上たったところで、治療前後の自覚症状の改善度を調査した。その結果、治療期間は平均41日で、最終的な症状改善は29例(91%)に認められ、腹部症状を気にすることなく牛乳を一度に飲める量は、全員100ml以上、150~200mlは78%で、有効な治療法であった。しかし、治療後のLHBTの数値の上での改善は、35%にとどまり、55%は変化がなかった。
 また、治療前後の便採取で腸内細菌叢の解析(16S-rRNA)をおこない、治療前後の変化を検討した。細菌の占有率で比較したところ、32例全体では、Clostridiales Lachnospiraceae [Ruminococcus] で有意な減少が認められた(p=0.0423)。また、治療効果のあった29例の検討では、有意差はなかったものの、Blautia 属(中央値比0.65, p=0.0789)で増加傾向が認められ、牛乳摂取の継続が、腸内細菌に何らかの変化をもたらしていると推測された。
 今回の牛乳漸増負荷治療は、症状の改善からみて有効であることは明らかであったものの、治療後のLHBTにまで反映されなかったこと、腸内細菌叢の変化が限定的であったことは、治療期間が約40日では、まだ、腸内環境に反映するほど変化を与えていない可能性があった。さらに牛乳摂取の継続期間を延長すると興味深い結果が得られる可能性がある。

2023年11月9日