2016年
著者:坂根 郁夫
所属:千葉大学大学院 融合理工学府 理学研究院

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

要旨

  最近、高脂肪乳製品(牛乳やチーズ、ヨーグルトなど)をよく飲み食べる人では、全く飲み食べない人に比べ、2 型糖尿病の発症リスクが23%低下することが、約2 万7000 人(年齢45~74歳)の観察研究で明らかになった。しかし、高脂肪乳製品の摂取による2 型糖尿病の発症リスクの低下のメカニズムは全くと言っていいほど不明である。
 興味深いことに、牛乳を含む乳製品の脂肪には例外的にミリスチン酸(14:0(炭素数14:不飽和結合0))が多量に含まれる(牛乳では総脂肪酸に占める割合が約12%)。一方、最近我々は、細胞レベル(筋管細胞)で、ミリスチン酸がジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)δ アイソザイムの発現量を増加させることを明らかにし、更に、ミリスチン酸は筋管細胞の糖の取り込み能を増大させるという予備的知見を得た。しかし、「実際に個体レベルでミリスチン酸によって糖の取り込みが増大するか否か」は不明である。そこで、上記の仮説を証明するために、「細胞レベルでの、ミリスチン酸よるDGKδ の発現量増加を介した糖の取り込み能の増大の確認」と「個体レベルでのミリスチン酸の骨格筋細胞の糖取り込み能に及ぼす影響の解明」を目的に本研究を計画し、遂行した。
 まず筋管細胞において、コントロールに比べ、ミリスチン酸処理した時にDGKδ 発現量の2 倍以上の上昇を確認した。そして、コントロールと比べ1.5 倍程度グルコース取り込み能が上昇した。パルミチン酸(16:0)処理では、DGKδ の発現量とインスリン依存的グルコース取り込み能は共に変化しなかった。また、DGKδ 過剰発現株はコントロールに比べ、グルコース取り込み能は上昇した。逆に、DGKδ ノックダウン細胞はコントロールに比べ、グルコースの取り込み能が減少した。従って、ミリスチン酸の摂取により2 型糖尿病を軽癒、予防できる可能性が示された。
 次に、糖尿病モデル(Nagoya-Shibata-Yasuda(NSY))マウスを用いて個体レベルで、ミリスチン酸の効果を検討した。ミリスチン酸を投与した24 週齢と30 週齢のNSY マウスでは、コントロールと比較してグルコース負荷試験時に低い血糖値を示し、有意な差が認められた。また、糖尿病と判定されるNSY マウスは週齢を重ねるごとに増加し、発症率の増加が確認されたが、その発症率は30 週齢でのミリスチン酸投与マウスで30%と、コントロール群の89%やパルミチン酸投与群の78%と比較して大きく低下していた。また、インスリン抵抗性の指標となるインスリン負荷試験でもミリスチン酸投与時に低い血糖値を示し、インスリン抵抗性が軽減していた。更に、骨格筋におけるDGKδ の発現量は、ミリスチン酸投与により、コントロールと比較し1.6 倍程度の増加が見られ、細胞レベルで得られた結果と一致した。従って、ミリスチン酸投与は、個体レベルでDGKδ の発現を亢進し、更にグルコース取り込み能を少なくとも一部はDGKδ の発現量増大を介して正に制御することが強く示唆された。
 以上のように、今回の研究で牛乳を含む乳製品の脂肪に多量に含まれるミリスチン酸が、2 型糖尿病リスク低減食品成分として有望であるという、極めて興味ある結果が得られた。
 
 ※平成28年度「牛乳乳製品健康科学」学術研究

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2018年3月13日