運動後の血液量変化が発汗機能に及ぼす影響:牛乳を用いた熱中症予防のエビデンス
2016年
著者:天野 達郎
所属:新潟大学教育学部 保健体育・スポーツ科学講座 運動と環境生理学研究室
要旨
これまでの先行研究で、運動後に多量(2L 程度)の牛乳を摂取すると水やスポーツドリンクと比較して運動後の体液バランスの回復が改善することが報告されている。本研究では、先行研究よりも少ない量の牛乳摂取でも運動後の体液バランスの回復が加速し、それに伴い汗腺機能が改善され、さらには引き続き行う持久性運動のパフォーマンスと体温調節機能が向上するのかどうかを検討した。6 名の健康な若年男性が間欠運動(Exercise 1、4 分運動+5 分休息×8 セット)を行い、その直後に体重1kg あたり5.45g の牛乳、水もしくはスポーツドリンクを摂取した。その後3 時間安静を保持した時の体重、尿量、尿比重、血液量、赤血球量、血漿量を比較した。Exercise1 の2 時間後にイオントフォレーシス法を用いて前腕部におけるピロカルピン誘発性発汗反応(汗腺機能の指標)を測定し、同3 時間後に43℃の湯が流れる水循環スーツを着用して最大運動負荷の60%強度の自転車運動を継続できなくなるまで行った(Exercise 2)。その結果、Exercise 1 後に摂取する飲料の違いはその後の各体液パラメーターおよびピロカルピン誘発性発汗反応に影響しなかった(全てP > 0.05)。また、Exercise 2 における運動継続時間は飲料条件間で差がなかった(P > 0.05)。Exercise 2 のスポーツドリンク条件における平均皮膚温は他の飲料条件より部分的に低下したものの(P < 0.05)、その低下は他の体温調節反応に影響するほど大きなものではなかった。これらの結果は、運動後に行う比較的少量の牛乳摂取は他の飲料と比べてその後の体液バランスの回復、汗腺機能、引き続き行う持久性運動のパフォーマンスと体温調節反応にほとんど影響しないことを示している。