2012年
著者:マリア・ヨトヴァ
所属:総合研究大学院大学 文化科学研究科 比較文化学専攻
雑誌名・年・巻号頁:総研大文化科学研究科編集委員会編『総研大文化科学研究』.2012;第8号:159-176.マリア・ヨトヴァ 総合研究大学院大学 文化科学研究科 比較文化学専攻

  • 社会文化
  • 食文化

<要約>

本論文は、ブルガリア・トラン市に設立されたヨーグルト博物館(2006年設立)の展示内容について考察しながら、現代のブルガリアにおけるヨーグルトの表象・特徴について検討した論考である。古くからブルガリア人にとって、ヨーグルトは「貴重な栄養源」である一方で、さまざまな行事・儀礼において重宝された伝統食品であった。ヨーグルト自体、ブルガリアのみならず、「バルカン地域や中近東、モンゴル、インド」などにおいてもなじみの食材であるが、20世紀初頭におけるグリゴロフによるブルガリア菌の発見、メチニコフによるブルガリア菌で発酵させたヨーグルトの効能に関する研究発表がきっかけで、「ブルガリアヨーグルト」=「長寿食」というイメージが欧米各国に普及。ブルガリアの国家シンボルとしてのイメージが定着することとなった。しかし、社会主義体制に終止符が打たれた(1989年)のを機に、ヨーグルトをめぐる人々の意識にも変化が訪れる。健康食品、デザートとしての新たな価値を売りにする多国籍企業の参入が本格化する一方、国営企業は明治乳業との技術提携に乗り出し、技術力のアピールに着手。筆者は「明治乳業によって創られたブランドは、ブルガリアにヨーグルトの価値を再認識させる再帰的な機能を果たした」とも記している。また昨今のブルガリアにおけるヨーグルトのイメージについて、「ブルガリアのヨーグルト博物館の展示に注目してみると、「人民食」や「日常食品」としてのヨーグルトよりも、むしろ「健康食品」としての側面が前面に押し出されていることに気づく」という。筆者の言葉を借りれば、これまで民主化以降の「自国の食への固執」にありがちだった「ナショナリズム的な反応」や「社会主義へのノスタルジア」ではなく、ブルガリアでは「むしろ西欧からの否定的な視線に対する積極的な自己肯定化の試み」としてとらえてきた傾向がみえるとある。さらに筆者は「結果的に、本博物館の展示からは、ブルガリアが西欧と同様の価値観を共有しており、乳酸菌研究の発展や現代社会の健康的な生活に大きく貢献していることが伝えられている」とまとめている。

<コメント>

 ブルガリアのナショナルフード「ヨーグルト」の定着過程に関する考察・試論として、興味深い論考である。また筆者は、日本における「明治ブルガリアヨーグルト」の成功が、「自然豊かで美しい」ブルガリアの新しい自己像の提示を可能にしたとも説く。ブルガリアの国家表象形成に及ぼした日本の貢献を教えてくれる。

書籍ページURL https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000j5tk.html

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2015年9月21日