2016年
著者:杉山 寿美
所属:県立広島大学

  • 社会文化
  • 食文化・食生活

背景

 国民の健康の保持・増進のためのエネルギーおよび各栄養素の摂取量の基準を示した「日本人の食事摂取基準2015 年版(以下、食事摂取基準)」では、高血圧、高血糖等のリスクを有する人を対象者に含み、エネルギー産生栄養素の量およびバランス、脂溶性・水溶性ビタミンの量、多量・微量ミネラルの量について、推定平均必要量、推奨量、目安量、耐用上限量、目標量を示している1)。疾病を有する人の各栄養素の摂取量の基準は、各疾病の「治療ガイドライン」に、その疾病に影響が大きい栄養素のみが示されており、他の栄養素は食事摂取基準に従うこととされている。また、「食事摂取基準」、「治療ガイドライン」ともに、1 日単位で栄養素の量が示されているが、「食事摂取基準」では習慣的な摂取量を1 日あたりとして示したものであり、その活用において『美味しく楽しく食べることができる食事』という概念を有している一方、「治療ガイドライン」は1 日ごとに守るべき栄養素量として示されている。この2 つの基準の概念と示された栄養素の違いは、臨床領域における食事設計への運用において、治療のための1 食、1 日単位の「厳密さ」と『美味しく楽しく食べることができる食事』としての「柔軟さ」の両立を困
難としている。
 例えば、カルシウムの摂取量については、平成27 年国民健康・栄養調査によると509mg/日(20歳以上)であり2)、食事摂取基準の推奨量である650mg/日(男女ともに20 歳以上の最小値)にも達しておらず、意識しなければ摂取しにくい栄養素と考えられる。我々は、これまでに健康な人を対象とした食事設計において、食事に含まれるカルシウム量を食事摂取基準に合致させるためには牛乳等の乳製品の活用が不可欠であること3,4)、糖尿病食事療法のための食品交換表(以下、食品交換表)5) を用いない糖尿病の治療食献立では、牛乳の摂取頻度、カルシウム摂取量が著しく低いこと6) を報告している。一方、糖尿病を含む長期にわたる管理が必要となる疾病に対して、医療施設で提供される実際の治療食献立や、管理栄養士養成課程の学内実習で学生が作成する治療食献立には牛乳を含むことが多く、これらに牛乳を含む理由について、カルシウムの給源であることや朝食調理の効率化が推察されるものの明確に説明することは不可能である。
 そこで本研究では、治療食献立における牛乳の栄養学的役割と嗜好・摂取意欲の変化を明らかにすることを目的とし、Ⅰ. 治療食献立集(書籍)における牛乳の利用状況の解析、Ⅱ. 医療施設における治療食献立への牛乳の活用実態に関する調査、Ⅲ. 牛乳の利用状況と入院経験の関係に関する調査を行い、牛乳が治療食にどのように利用され、受容されているかを考察することで、食事摂取基準の「柔軟さ」と治療ガイドラインの「厳密さ」を両立した牛乳の活用法、栄養学的、文化的な食事設計方法を検討した。
 なお、本研究における倫理的配慮は、公立大学法人県立広島大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号16HH001)。
 
※平成28年度「乳の社会文化」学術研究

2017年12月11日